合宿から返って来た俺を出迎えたのは


君のいない世界だった






抱きしめたい世界





鈴木亜子が学校に来ていないという話は忍足から聞いた。それを聞いたとき、俺の頭は真っ白になった。まさか、俺にあの写真をばら撒かれるのを恐れて姿を消したのか?俺はその時初めて気付いたのだ。彼女には翼がある。どこへでも自由に羽ばたいていける翼が……


彼女の住所なんてとっくに調べ済みだった俺はすぐに彼女の住まう場所へと向かった。そして彼女の家のチャイムを押す。そして少し経って現れたのは、まさしく彼女だったが、その頬は青白く、目は腫れていた。俺がいない間に何かあったのか、彼女は精神的に参っているようだった。それでも、俺はまだ彼女がこの場所に居てくれたことに、ほっとした。彼女はどうぞ、と俺を家に挙げた。単なるお客として俺を認識していることは彼女の態度からわかったが、男をそんなに軽々と招き入れるもんじゃないぜ……。まあ、入るけどな。


「何かあったのか?」


沈黙が支配した空間の中で、俺の問いに彼女は答えずに俯いただけだった。そして、彼女の様子が突然おかしくなった。彼女はしゃくり上げると、ぽたぽたと大粒の涙を流し始めたのだ。それは、俺が初めて彼女を目にした時に似ていた。あの時も彼女はこんなふうに泣いていた。


何がそんなに悲しいんだよ……


「泣くな……」


俺は思わず、彼女を抱きしめていた。