数日、何もせずに過ごした。というより、何も出来なかったという方が正しい。この鬼の里で保護されてからあまり体調が優れない。身に覚えがないのに鼻血が出たり、謎の倦怠感、発熱、関節痛など私の身体はなぜか弱っていた。そのため、何もせずにただ寝ていた。何も考えずに、ただ身体を休めた。誰も心配などしてはくれない。
 そんな日が幾日か続き、毎日の倦怠感と微熱にも慣れて布団から起き上がれるようになった頃、私の部屋に天霧さん(確か風間さんの従者)が訪れるようになっていた。私を監視しているのか部屋の隅で正座をしていることが多い。時々私の会話相手になってくれたりする。でもお手洗いの時以外は部屋の外には出してくれない。狭い所に居続けているせいでストレスは日々増していく。
 暇が多い分、自分の今置かれている状況を嫌でも思い知らされるのもストレスの貯まる原因だ。天霧さんを初めて自分の目で見てからここがゲームの世界であることがほぼ確信した。どうして私がこの世界に来てしまったのかわからない上に、どうやって元の世界に戻れるのかも定かではない。最悪の場合一生この世界に居ることになってしまうだろう。そうなると、私は一生こんな軟禁状態で過ごさなければなくなる。考えただけでもぞっとした。


「天霧さん」


私が名を呼ぶと、無表情で天霧さんはなんでしょう、と言った。


「私はいつまでこの部屋に閉じこもってなければいけないのですか」


天霧さんは私の問いに少し困ったように眉を寄せた。


「今風間がそのことについて皆と詮議しております」「……でも、せめて外を覗くだけでも」
「この屋敷には牢がないためにこうして部屋で監禁しているのです。そのことをどうか弁えて頂きたい」


弁えて欲しいと言われても、私は別に何をしたわけでもないではないか。不幸なことにこの世界に来てしまって、偶然にも鬼の里にたどり着いてしまった。ただそれだけのことなのに、どうして私がこんな目に遭っているのだろう。確かに、助けて貰ったことは有難いが……


「私、ここのことを誰にも言いません」
「さて、どうであろう」
「……!」


天霧さんの背後の障子戸から風間さんが現れた。気配なくいきなり現れたものだからびっくりした。


「貴様の処分が決まったぞ」


風間さんは相変わらず私を冷たい目で見下ろして言った。処分が決まったと言われて、つい最悪の事態を考えてしまい、冷や汗がにじみ出てくる。「貴様には一生この里に居て貰うことになった」
「……一生、ですか……」
「一生だ」
「じゃあ、もうこの里からは出られない訳ですね」
「無論だ。少しでも逃げる素振りを見せれば貴様の首が飛ぶことと思え」
「……」


一生この里の中か……
私ははぁとため息を吐いてみせる。でも、考え方によっては生ぬるい措置と言えるだろう。殺されなかっただけでも大分マシだ。この里の鬼たちは余程人間のことが憎いだろうから。それに、一生この里に居るのかはわからないものだ。もしかしたら逃げ出せる機会があるかもしれない。別に一生ここで暮らすのも悪くはないが、私はまだ元の世界に帰ることを望んでいる。ここにいても元の世界に帰る方法は見つからないだろう。ならば、いつかこの里を出るしかないではないか。


「わかりました。寛大な処置に感謝致します」私は彼ら鬼が最も嫌う嘘を吐いてみせた。風間はそれだけ聞くと、満足したのか室を後にしようと身を翻す。それと同時に何かを思い出したのか、紅玉の瞳を私に向けた。


「それと、この室を出る際は必ず天霧と共にいるが良い。貴様ら人間を嫌うものはそこかしこに居るのでな。屍と化しても誰も悲しむまい」


それは私の命を狙うものがいるということだろうか。それもそうだ。確実にこの里のことを人間に知られないためには私を殺すことが最も確実だろう。しかし、それを詮議で主張したが、振る舞いと見た目に反して人のよい風間さんのことだからその主張は呑まれなかったのだろう。そう考えると、風間さんは私の命の恩人ということになる。それはそれでなんか嫌だけれど……
風間さんに礼を言おうと顔を上げるといつの間にか風間さんの姿はなかった。しかたない、それは後で言うことにしよう。生きているのだ。そんな機会はいくらでもあるだろう。もちろん逃げる機会も。私は断然希望が湧いてきたのであった。






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