それから精市は静かに語る。


「俺は名前に酷いことを言った。

もう彼女のそばに居る資格はないと思ってる。

それに…

俺は彼女の側に居るのが…怖い。

彼女が大切だから傷つけたくない。

なのに俺は彼女を傷つけてばかり。

また彼女を傷つけて、泣かせてしまうんじゃないかって思うと

…怖いんだ」


精市が怖いなんていうのは珍しい。


どんな時も精市は冷静だ。


弦一郎の様に怒ったり


赤也の様に焦ったり


そんなことはありえない。


いつも冷静に対処する。


そんな精市が怖がるなんて初めてだ。


「逃げているんじゃないか?」


慣れない気持ちからかもしれない。


だが精市は彼女から逃げている。


「そうかもしれない。

なまえにも素直になれといわれた。

でも俺は自分が素直になっていいのかわからない。

俺が素直に名前が好きだといったら彼女は喜ぶかい?

答えは否だ。

彼女の中にはきっと俺が傷つけた記憶があるはずだ。

だから…

あの子は仁王の隣に居る方がいい」


否ではないと思うがな。


名前はきっと喜ぶ。


そして仁王に対して申し訳ない気持ちを持って戸惑う。


そんなところだろう。


「人の気持ちを決め付けるなよ。

そればかりは誰も、俺すらも予想できない。

もしかしたら受け入れてくれるかもしれない。

今このままにして後悔するよりは

ちゃんと素直に気持ちを伝えた方がいい」

「…」


俺はそれだけ言って精市の下を離れた。



―――R.Yanegi said END