そんなことであたしはめげない。


「あたしは名前って言うんだ。あんたの名前も教えてよ」


彼はもう嫌だとは言わなかった。


その代わりはぁっと溜息をついた。


「俺は…ユキムラ」

「ふーん。ユキムラは何で1人になりたいの?」

「ちょっと落ち込んでてね」


あたしのしつこさに諦めたのか素直に質問に答える。


「どーしたの?」


その質問にユキムラは俯く。


「俺…負けたんだ…」

「なにで?」


結果だけ聞いてもわからない。


「自分の好きなこと」


ユキムラの好きなことが何かなんて知らない。


でも、自分の好きなことで負けるのはきっと悔しい。


「名前は自分の好きなことで負けたことある?」


自分の好きなことで負けたこと…。


その前にあたしの好きなことってなんだ…?


「俺、この前初めて負けたんだ。Jr大会でも優勝して負けたことなかった」


ポツリポツリと漏らしていく彼の言葉はどれも消えてしまいそうなほど小さな声だった。


「でも、何か知らない奴に負けた。どこから来たのかも、名前すらも知らない奴に」


あたしはただ相槌を打っていた。


「全然敵わなかったんだ」


髪の毛の隙間から見える唇は下唇を噛んでいた。


「悔しかった。あんな風に言われたの初めてだ」


あんな風にってどんな風だろう。


バカにされたのかな。


でも好きなことなら…


「その好きなことはもうやめちゃうの?」


ユキムラの頭が左右に揺れる。


「俺はやめたくない」


「ならやめないで頑張れば?人間負けないとわかんないこともあるっておとーさんが言ってた」


この言葉はあたしが陸上の大会で負けた時言われた言葉。


「だから頑張って。じゃ、またね、ユキムラ」


あたしは手を振って公園を出る。


またね。とは言ったもののその後1回もユキムラには会わなかった。