雅治はあたしが泣いている間ずっと強く抱きしめていてくれた。


「落ち着いた?」


泣き止んで少しして雅治が聞いてくる。


「うん。ありがと」


あたしが小さく笑って言うと雅治はキスをした。


一瞬触れただけの軽いキス。


唇を離して雅治は苦しそうに言った。


「やっぱり俺はおまんを忘れられん。今、弱ってる時に言うんは狡いと思うんじゃが…俺と付き合わんか?」


真剣な目で見つめる雅治。


あれだけ言ってもまだあたしを好きでいてくれるんだね。


「でも、あたしは幸村のことが好きなんだよ?」


もう蓋をしようと決めた言葉を口に出す。


だってこんな状態で雅治と付き合っても傷つけるだけ。


「それでもええ。幸村の代わりでも。おまんの側にいたい」


そう言ってくれる雅治の顔は詐欺師ではない。


本当にあたしを思ってくれる大切な人。


「俺なら名前を泣かせない。俺を好きにさせる」


雅治はもっと強く抱きしめる。


こんなに思ってくれる人に恋をしたならどんなに楽だっただろう。


あたしは幸村に手が届かない。


なら新しい恋として雅治を受け入れるのも有りかもしれない。


「でもあたし…雅治を幸村の代わりとか…できない」


そんな最低なことをして大切な人を傷つけてはいけない。


「だからあたしも雅治を好きになるように努力する」


幸村への思いはもう蓋をする。


そして雅治を好きになる。


あたしをこんなにも思ってくれる人と一緒にいよう。