S.Yukimura said



「精市」


朝練が始まる前にコートを整備していたらなまえに呼び止められた。


「何?」


なまえは俺をじっと見る。


「このままでいいの?」

「何が?」

「仁王に持ってかれちゃうよ」


あぁ、名前のことか。


しょうがない。


俺は片思いなんだから。


「いいんだ。2人はお似合いだろう」


脳内で2人が並んで歩く姿が思い浮かぶ。


「そんな寂しい顔で笑わないで。無理しなくていいんだよ」


無理なんかしてない。


2人が付き合ったとしたら名前は幸せだ。


俺はいいんだ。名前が幸せならそれで。


「名前はその方が幸せだとか思ってんでしょ。そうやっていつも自分を後回しにするんだから」


そんなことはない。


彼女は彼女の意思で仁王といる。


「もっと素直になってよ。精市ばっかり我慢しなくていいんだよ」


俺を見ながらなまえの目には涙がたまってきた。


「我慢だなんてしてない」


これは我慢じゃない。俺は本当にそう思ってるんだから。


「せーちゃんは名前が好きなのに…」


なまえの目から涙が溢れる。


「せーちゃんはもっと、素直に、なればいい、のに」


しゃくりあげて喋る。


「せーちゃん、も、幸せに、ならなきゃ」


なまえの目には大量の涙。


ああ、俺は大事な人を泣かせてばかりだ。


なまえが俺のためにそう言ってくれるのはわかってるんだ。


「すまない」


俺はなまえを抱きしめる。


ありがとう、俺のために泣いてくれて。


もっと自分の気持ちを大切にするよ。





まさかこんな所を名前に見られてたなんて思いもしなかった。




S.Yukimura said End