偽り







蓮二との電話以来あたしは雅治と普通に接することができるようになった。


それがなんだか嬉しかった。


これで良かったんだ。


「雅治ー、朝練遅れるよっ!!」

「んー」


雅治はめんどくさいとでも言うように立ち上がった。


が、すぐにはコートに向かわず立ち止まった。


「名前」

「ん?」

「多分今、行かん方がいいぜよ」


何言ってんの。


朝練に遅れちゃうよ。


「何で?」


あたしの問に雅治は答えない。


ただひたすら遠くのある場所を見つめるだけ。


雅治の目線の先を見ようとしたら目の前が暗くなった。


「ちょっ!!雅治っ!!見えないよ」


雅治があたしの目を手で覆ったのだ。


「見ん方がいいナリ」


そこに何があるの?


見ない方がいいってどういうこと?


「はなして」

「名前、」


あたしは雅治の手を無理矢理払った。


さっき雅治が見ていたそれを見る。


「あ…」


雅治は苦虫を噛んだような顔をして自分の額に手をあてた。


あたしが目にしたのは幸村がなまえを抱きしめている姿だった。