過去
初めてあいつに会ったのは、小5の寒い冬の夕方。
今にも雪が降りそうなどんよりとした雲の下、公園のベンチでぼーっと座っていた黒髪ウェーブの美人な男の子がいた。
近づいてみると彼はゆっくりとあたしに視線を移す。
「何?」
座っている彼はあたしを見上げたまま興味なさそうな目で見る。
「や、何してるのかなぁって思って」
「君には関係ないよね。俺、1人になりたいんだ。目障りだから帰ってくれる?」
彼は視線を元に戻して溜息をついた。
そうは言われたもののなんとなくほっとけなくて隣に座ってみた。
「何で帰らないの?」
「んーなんとなく。あんたは?何で1人になりたいの?」
「別に。君には関係ない」
フンと鼻を鳴らして目をそらす。
「そっか。でも早く帰った方がいいよ。寒いからね。それにあんた、マフラーも手袋もしてないじゃん」
あたしはコートのポケットから手を出して、彼の手に触れる。
「冷たいねー」
彼の手は本当に冷たかった。
氷に触ってるような感覚。
今ならありえない。
あいつの手はいつも暖かい。
それは特定の相手にだけだけど。
「ほっといてくれない?」
「あんた凍っちゃうよー」
あたしは彼の手を自分の手に包み、息をかける。
あたしの息は白くなって彼の手にかかる。
何度か繰り返しているとあたしの手の中の手が引っ込んだ。
「君、何のつもり?お節介なんだけど」
あたしをじっと見る茶色い瞳。
「知ってるよ。けど何か気になんだよね。あんた、名前は?」
「君に答える筋合いはないよ」
ツーンとした態度であたしに言う。
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