あたしは走ってコートに向かおうとする。
けれど後ろからは雅治の足音はしない。
あれ?おかしいな。
変に思って後ろを振り向いてみると部室にもう一度入ろうとする雅治の姿があった。
「雅治?遅れるよ?」
「俺はいかん」
「はい?何言ってんの」
すでにジャージに着替えてるしラケットだって持ってるくせに今更行かないとか何言ってんの。
てかホントに時間がやばいってば。
「だから朝練に不参加ってことナリ」
もう一度そう言って部室のドアノブを掴む。
「ちょっと待って!!どうして?」
「別に。今日はテニスをする気分じゃなか」
雅治までどうしちゃったの?
いつもそんなこと言わないじゃん。
「気分で部活でないなんておかしいでしょ。今日は幸村も機嫌悪いみたいだし早く行こう。今ならまだ間に合うよ」
あたしの“幸村”という言葉で雅治の目つきが変わった。
「またお前さんは幸村か」
雅治は眉間にしわを寄せて苦そうな顔をした。
「幸村、幸村っておまんにはそれしかないんじゃな」
雅治は最後にあたしをじっと見て部室の中へ消えていった。
「雅…治…」
雅治はあたしのことそんな風に思ってたの?
いつも話を聞いてくれてあたしを励ましてくれてたのは詐欺だったの?
だったらどうしていつも話を聞いてくれたの?
本当は嫌だったの?
雅治の言葉で沢山のどうしてがあたしの頭の中をさまよう。
あたしの中がぐちゃぐちゃになる。
「雅治…ごめん…。もう…言わないから…」
部室のドアに向かって言う。
勿論返事はない。
あたしは涙を堪えながらコートに向かった。
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