携帯電話
どないしよう。
目の前でピカピカとランプが光りながら震えているのは紛れもなく携帯だ。
このオレンジの携帯には見覚えがある。
隣の席の忍足君のもんや。
何で今日に限っておいてくんや。
今日は宿題未提出の罰でうちは居残らされとる。
その今日、普段ずっと携帯をいじって手放さない忍足君が忘れるなんて。
「とりあえず届けた方がええよね」
でも彼はテニス部で、今は多分黄色い声援の中で部活中や。
いったいどうやって渡したらええんやろう。
隣の席や言うてもうちはほとんど話したことないし、ちゅうか緊張し過ぎてまともに目も合わされへん。
うちは忍足君が好きやから。
「うん、でも困っとったらアカンし」
覚悟を決めて、オレンジの携帯を手に取った。
携帯は震えてはおさまりの繰り返し。
探してて電話かけとるんかもしれん。
それやったら出た方がええんかな。
人のもんやから勝手に出たらアカンけど、もし電話の相手が忍足君やったら、見つかったって安心するかもしれへん。
うちは意を決して通話ボタンを押して耳にあてる。
「もしも…」
「おぉー、名字さん!?」
え、何でわかるん?
うちまだ全然しゃべってへんのに。
しかも相手誰?
忍足君の声やない。
「えと…そうですけど…」
「やっと出てくれて助かったわ」
よく聞けば聞き覚えのある声。
声の主を確かめるために一度携帯を耳から離して画面を見る。
そこにある名前は“白石蔵ノ介"。
「し、白石君!?」
「せやで」
そやったら事情説明したら届けられる。
白石君は忍足君と同じテニス部の部長さんやし。
「こ、の携帯、教室に忘れられててん。忍足君、困っとるよね。うち今から届けに…」
「その必要はないで」
「え?」
「多分そろそろ着く頃とちゃうかなぁ」
楽しそうに笑っているのが電話越しでもわかる。
何が着くって?と思ってたら教室のドアが開いた。
静かやった教室に突然ドアが開く音がしたから吃驚して体が跳ねる。
そこにいたのはうちが今耳にしとる携帯の持ち主、忍足君やった。
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