優しさから始まった



屋上でよく会うあの子。



名前を知らないどころか。



クラスも、学年すらも知らない。



そんな正体不明の少女に出会ったのは3ヶ月前。






俺は気分が悪くなって屋上に行った。



保健室に行くより気分が楽になるからよくそこを使っていた。



勿論そこには誰もいない。



はずだった。



けれど、俺の考えとは逆に彼女はいた。



そして彼女は泣いていた。



俺が近づくと彼女が振り返って俺を見た。



「誰…?」



授業中にこんなところに来る奴なんていないと思ってたんだろう。



俺だってそう思ってたし。



「ゴメンね、まさか人がいると思わなかった」

「ぃぇ…」



彼女は小さく応えて涙を袖でぬぐった。



見たところ同学年ではないことは確かだ。



「俺は幸村精市。君は?」

「………」



どうやら彼女は名前を言いたくないらしい。



「テニス部の新しい部長さん?」

「そうだよ」



中学の頃も部長をやっていただけあって俺は少々有名だ



「授業…サボり?」

「君は?」



彼女の質問に答えずに聞き返す。



俺は決してサボっているわけではない。



ちゃんと教師に許可も貰ってきた。



「私は泣きたかったの…」



彼女の少し長めの髪が風で揺れる。



「どうして?」

「…」



彼女は答えずに俯く。



「お母さんに…怒られたから」



お母さん…?



「そう…。もう、授業行くね。部長さんも授業出た方がいいよ。バイバイ」



彼女は俺の横を通り過ぎて屋上を出て行った。



戻る