彼が笑うの初めて見た。
優しい笑顔だ。
それは柳生君そのものだ。
今、柳生君はそんな顔で笑える心境ではないはずなのに。
「では、私は行きますね」
私に軽く頭を下げて傘を開く。
「待って」
そのままわたしを見る。
「もう少し、待って」
「?」
柳生君は静止する。
「もう少しだけ、気持ち応えるの待って。わたし、自分の気持ち確かめたい」
さっきの気持ち、
わたしの好きな人は仁王君じゃないかもしれない。
最近仁王君と柳生君が一緒にいると
どっちを見てるか判らないんだ。
今までは勿論仁王君を見てた。
好きだったから。
でも今は、
柳生君を見てる時がある。
「考えさせて」
「無理しなくて良いんですよ。私は気にしませんから」
そんなこと言わないで。
わたしの気持ち確かめさせて。
もっとちゃんと貴方を知りたい。
「ううん。無理じゃない。ちゃんと考えたいの」
わたしには何が正しいかわからないけど。
それでも過ちは繰り返さないようにちゃんと考えるの。
もう、元彼のように人を傷つけたくない。
「そうですか。ありがとうございます」
また、笑った。
柳生君が笑った顔、好きだ。
「おや?」
柳生君は空を見上げる。
傘を閉じてわたしに笑って言う。
「雨、上がりましたね」
あぁ、わかってしまった。
END...
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