柳生君がわたしの名前を呼ぶのが雨音と一緒に聞こえる。



これでいいんだ。



これで誰も傷つかない。






それからしばらく、柳生君とは目を合わせられないでいた。



彼のそばにはわたしの片思いの君がよくいる。



わたしには柳生君の気持ちに応えることはできない。



わたしはずっとずっと仁王君が好きだったから。






気持ちの変化に気づいたのはまた雨の日だった。



でも俄雨。



きっとすぐに晴れる。



そう思ってあがるのを待ってた。



「奇遇ですね」



声の正体は柳生君。



今日も王者立海は部活のはずなのに。



「部活じゃないんですか?」

「ちょっと所用がありまして」



雨があがるのを待つわたしたちには沈黙が流れる。



気まずい。



あれ以来ずっと近づかないでいたから。



「あの時はすみませんでした」

「え?」

「あんなこと言うつもりではなかったんですけど」



柳生君が言うのは勿論あの雨の日のこと。



「貴女が仁王君を好いていたことは知っていました」



気づいてたんだ。



苦しい筈なのに淡々と話す。



この言葉がわたしに違和感を感じさせる。



あれ?今、わたし、知っていて欲しくなかったと思った?



どうしてだろう。



「だから言うつもりはなかったんです。貴女を困らせてもしかたありませんからね。勿論あの応えはいりませんよ」



柳生君が笑う。



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