初対面のはずの彼が何故私を知っているのだろう。
「…」
私をじっと見て溜め息をつく。
この仕草、どこかで…。
「もしかして日吉君!?」
「やっぱり…」
日吉君は呆れて苦笑している。
「気づいてなかったんですね」
はい。そうです。
この人が日吉君だなんて思わなかった。
だってあたしの中の彼はいつも眼鏡をかけているから。
「そんなに眼鏡外すとかわりますか」
「うん。わかんなかった。ごめん」
でも今会えて良かった。
これで次はちゃんと日吉君を認識して見れる。
「ねぇ、私がいることどうしてわかったの?」
あのファンの多さの中で一人の人を探すなんて不可能に近い。
しかも日吉君はテニスコートの中でボールを追っている。
尚更不可能だ。
「先輩が俺を見てるように、俺も先輩を見てるってことですよ」
頭をかいて小さく笑う。
それは、自惚れてもいいのかな。
あたしは日吉君のこと好き。
日吉君もそう思ってるって思ってもいいのかな。
「あの…それ…」
言い出せずに目が泳ぐ。
「自分に聞いてくださいよ。それじゃあ」
軽く私の肩を叩いて背を向けて歩いて行く。
まったく、素直じゃない。
もうわかってるなら言ってくれればいいのに。
「日吉君!!」
離れていく日吉君を呼び止める。
彼が振り返った瞬間、思い切り抱きつく。
「ちょっ、先輩!!」
驚いたようですごく慌てる。
急に抱きつかれたらそりゃそうか。
でも何気にちゃんと受け止めてくれている。
「わ、私は、日吉君のこと好きだよ!!」
精一杯の気持ちを込めて言う。
「先輩…」
日吉君は今までに見たことがないくらい優しく笑っただけだった。
それが照れ隠しなのは私にはわかる。
だってずっと見てたもの
END...
←→
戻る