優しさってものを


「ぜんざい」

「…」



無視かよ。



「ぜんざい」

「…」



絶対聞こえてるくせに。



「ぜんざいっ!!」

「…わざとッスか、先輩」



3度目でやっと返事をしたかと思うと不機嫌そうな顔。



「何が?」

「俺、ぜんざいやのうて、財前ッスわ。ええ加減俺の名前覚えてください」

「あれ?あたしちゃんと財前って呼んでなかった?」



ちゃんと財前って呼んでたはずなんだけど。



「自分、耳大丈夫ッスか」

「うん?多分問題ないと思うけど」



財前はあきれたようにあたしをみてふぅっと溜息をつく。



「それで?俺に何か用でもあるんやないですか?」

「あぁ、そうそう」



何か友達から財前に手紙渡すように預かってきたんだよね。


「はい、これ」


財前に手紙を渡すと彼はめんどくさそうに受け取った。


「何スか、先輩からのラブレター?」

「なわけないじゃん。渡してくれって友達に頼まれたの。あたしテニス部のマネージャーだからさ」



というと財前は一応封を切った。



中に入っていた手紙をさっと読むとすぐに破った。



「先輩、これ捨てとってください」



破った紙をあたしに押し付ける。



「…破っちゃってよかったの?」

「自分で渡しもできへん奴の告白なんか受けたない。時間の無駄や」



いくらなんでもそれは言いすぎじゃないかな。



ていうか人の気持ちは大切にしようよ、財前君。



「え〜、流石に行ってあげないのは可哀想じゃない?もうちょっと優しさってものをさ〜」



まぁ、ぶっちゃけ行って欲しくないけど。


「好きでもない女に優しゅうしてもしゃーないっスわ」



いやいやいや、そうでしょうか…?



「せやから先輩には…優しゅうしても…ええですわ」



きっとこれが口下手な彼の精一杯の告白なんだろう。



「そっか。ありがとう。あたしもぜんざいのことは好きだよ」

「せやから俺は…」

「今のはわざと」



あたしはくすっと笑って財前に抱きついた。



END...


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