赤の他人







今日で高校1年生が終わった。


終業式を終えて私たちは2週間後には先輩になる。とはいえ私自身は何か部活に入ってるわけでもなく、縦の繋がりは薄い。
そもそもクラス外の人もほとんど知らない。だからクラス替えが少し寂しい。「違うクラスになるの寂しいね」なんて声が飛び交う教室。
もうこの教室も使わないんだなぁ。



「名前!!進級祝にカラオケ行かない?」

「行く行くー」



仲良しの友達、まゆちゃんとみっちゃんに誘われて笑顔で返事をする。
正確にはまだ進級してないけど、それは遊ぶための口実だ。要は遊べれば何でもいいってこと。










駅前のカラオケに入って2時間くらい歌った。3人共熱唱して疲れ果てた。



「買い物行かね?」

「いいねー!!名前ちゃんはどーする?」

「行く」



まゆちゃんの提案に賛成して3人で歩いていたら同じ制服のカップルを見た。それは別に気にとめることでもない。珍しい光景じゃないし。
けどよく見たら女の子は知ってる。確か隣のクラスの高橋さん。体育の合同授業の時に一緒だったから名前は知ってる。隣の彼氏は先輩かな。
背が高くてイケメンでしかも髪が綺麗なオレンジ色。同学年には見えない。



「高橋さんって先輩と付き合ってるの?」

「え?何で急に高橋さん?」



だってすぐ近くを仲良そうに歩いてるんだもん。私の視線の先を追って2人は高橋さんと彼氏を見た。
でも2人とも驚くことはなかったし、むしろまゆちゃんに至っては呆れたように笑ってる。



「名前ちゃん、多分あの男の子は高橋さんの彼氏じゃないよ」

「可能性は低いね」



2人して否定する。そんなに信じられないことなのかな。



「あの男は千石って言ってただの女好きなの。だから多分遊んでるだけだよ」

「千石くんがモテるのも事実だけどね」



まゆちゃんは中学で同じクラスになったことがあるらしくて千石君と知り合いだった。
私やみっちゃんも同じ山吹中だったし、今も尚同じ学校に通ってるのに私だけ知らない。
それは多分私があまり他クラスの人と関わらないからだと思う。



「関わっちゃダメよ、あんな男と」

「まゆは本当に千石くんのこと嫌いだね」

「みさきはあんな奴に愛想振りまきすぎなんだよ、愛想がもったいない」



まゆちゃんは見るのも嫌だというように溜め息をついた。一方、千石君は高橋さんに手を振って別れた。本当に恋人じゃないんだ。



「まゆ、すぐにこの場を離れた方がいいかも…」



それを見てみっちゃんは苦笑して言った。けどそんな忠告ももう遅くて、まゆちゃんの大嫌いな千石君が近づいてきていた。



「お〜い!!」

「無視無視」



千石君の呼びかけにまゆちゃんはわざと無視して歩き出す。私たち2人もそれに続く。



「ちょっ!!まゆちゃん、待ってよ」



千石君は走ってきてまゆちゃんの前に回り込んだ。



「もー、逃げることないじゃんか」

「あたしはあんたの顔も見たくない」

「酷いなぁ…おっ!」



まゆちゃんの後ろにいる私たちを捉えて千石君はにっこり笑う。その笑顔は普通にカッコいい。



「みさきちゃんじゃん。久しぶり〜」

「うん、そだね」



みっちゃんは普通に笑顔で返した。そして千石君は私を見た。



「君は?」

「あ、私は…」

「あんたが知る必要はない。行くよ」

「う、うん」



歩き出したまゆちゃんに、ごめんねと千石君に言ってからみっちゃんがついて行く。
私も千石君に頭を下げてから走って2人を追った。千石君が私たちを追って来ることはなかった。



「まゆちゃん、良かったの?」

「いーのいーの。今頃どうせ他の女の子探してるよ」



そんなに軟派な人なんだ。彼の軟派はかなり有名らしい。しかもあんなに目立つ見た目。それなのに知らなかった自分に驚くよ。










その後夕方まで買い物をしてその場で2人と別れた。私は2人とは帰る方向が違う。
1人で駅のホームで電車を待ってたら視界にオレンジ色がいた。



「あれ?君は…」

「あ、どーも」



一応ぺこりと頭を下げた。名前すら名乗ってないし、さっき彼の存在を知ったばかりだけど、声をかけられてしまえば反応せざるをえない。
まゆちゃんは関わるなって言ったけどこの状況で彼を無視するのは難しいよ。



「名前教えてくれる?」



さっきはまゆちゃんに妨害されたからさ、なんて言って苦笑する千石君は普通にカッコいい。カッコいいからこそ軟派なのかもしれないけど。



「名字名前です」

「俺は千石清純。よろしくね」



今度はちゃんと笑っていろいろと話し出す。今日まで実は隣のクラスだったことを知って驚いた。隣のクラスならいくら私でも知っててもおかしくないのに。



「それにしてもラッキーだなぁ。偶然また会えるなんて。名前ちゃんはさぁ…」



千石君は一人で喋ってる。私はそれに相づちを打って頷くだけ。
本当は人見知りするしもともと自分から話すのが苦手な私もすぐに千石君と打ち解けられた。きっとこういうの慣れてるんだなぁ。



「あ、私ここの駅だから」

「そうなんだ。またね」



千石君が手を振ってくれたから私もつられて振り返す。まゆちゃんが嫌ってるからどんなに悪い人なんだろうって思ったけど。全然良い人だ。