インディゴの夜





席替えして1週間。だんだん千石君とまゆちゃんが仲良くしてる(千石君が一方的にだけど)のを見るのも慣れてきた。
まだ羨ましく思ったりとかやきもち妬いちゃったりとかはあるけど。それでも前みたいに気分が悪くなったりはしなくなった。



「まゆちゃん、今日部活の前に時間ある?」

「あっても千石にかけるような無駄な時間はない」



さらっと千石君を見もしないで答えるまゆちゃんは相変わらず。前よりは嫌いじゃなくなってるといいんだけど。
それよりも千石君がまゆちゃんを呼び出すってことはとうとう告白するのかな。



ズキッ…



あーあ…。告白って考えるとまだ傷つくなぁ。本当に2人が付き合い始めたら私は今まで通り2人に接することができるのかな。
でも2人が付き合ったらいいなって思う私の気持ちは矛盾してる。



「お願い。ちょっとだけ時間頂戴。大事な話なんだ」



まゆちゃんに手を合わせる千石君。大事な話ってやっぱり告白か。まゆちゃんはOKするかな。
して、ほしいな。千石君にもまゆちゃんにも幸せになってほしい。千石君はまゆちゃんが言うほど酷い人じゃない。
すごく面白くて、格好いい。きっとまゆちゃんもこの1週間で気づいたはず。



「…部活前だけだから」

「ありがと!!」



まゆちゃんは嫌そうな顔をつくって千石君を一睨みしてまた前を向いた。放課後に千石君はまゆちゃんに告白をする。
ちゃんと笑っておめでとう言えるように心の準備しとかなきゃ。










放課後になってまゆちゃんと千石君は2人で教室を出て行った。そんな2人を特別気にしてるのは私だけだろう。
他の人たちも部活行ったり帰ったりする人がいて教室内はすぐに人が少なくなった。



「名前ちゃん?どうしたの、そんな難しい顔して」

「へ?あ、何でもないよ。みっちゃんも部活頑張ってね」

「?うん。また明日ね」



みっちゃんは手を振って教室を出て行く。
私は無意識のうちに難しい顔をしていたらしい。そりゃ今学校のどこかで自分の好きな人が他の女の子に告白してると思うとね。


はぁ…、うじうじしててもしょうがない。帰ろっと。



「名字、確か緑化委員だったよな?」



鞄を持ったところで担任に呼び止められた。緑化委員。確かにそんな委員会だったかも。花壇の手入れとかするやつだよね。



「はい、多分」

「ちょっと今日だけ花壇に水やってきてくれないか?まだ委員会のローテーション表つくってなくて」

「わかりました」



担任は緑化委員の担当らしく申し訳なさそうに頼んできた。別に時間もあるし、今日だけならって思って引き受けた。それが間違いだったとも気づかずに。


一度持った鞄を置いて花壇に行く。手には倉庫から持ってきた如雨露。
そこには先客がいて私は思わず隠れてしまった。それが千石君とまゆちゃんだったから。



「お願い。俺本気なんだ」



千石君の声だけが聞こえる。人の告白なんて聞いちゃダメだと思いつつ、耳をそばだててしまう。



「今までたくさん女の子傷つけてきて、よくそんなこと言えるね」

「それは…ごめん。でもっ」

「ふざけんな。絶対許さない」

「俺、本気で好きなんだよ」



あぁ、やっぱり。千石君は本当にまゆちゃんのことが好きなんだ。
内心もしかしたら告白じゃないかもって思ってたから、千石君の口から好きという言葉を聞いて少なからず落ち込む。



カラン…



私は如雨露をその場に落として走り出した。教室に行って鞄を持って、また走って家に帰る。


リビングにも行かずにすぐに自分の部屋に入って、ベッドに身を投げ出した。



そのまま泣きながら暗い闇の中に落ちて行った。