文化祭のオオカミさん | ナノ




蔵君のおかげでカップルコンテストはなんとか無事に終えることができた。ずっと隣にいるのはもちろんなんだけど、緊張する私に、隣にいるよって言ってくれてるみたいに手をきゅっと繋いでいてくれた。


司会進行からの質問だけじゃなくて、観客席からの質問も受け付ける形だったせいでどのカップルも散々いろんなことを暴露させられることになったけど。おかげで、告白したのはどっちかとか、告白の言葉とか、初めてのデートの場所とか、そんなありきたりな質問だけなわけもなく。そんなのこんなに多勢の前で言うの!?っていう質問もあった。



「名前のこの顔は俺だけのもんやから誰にも見せへん、やもんな〜」
「け、謙也君!ううう、うるさいよ!早く片付けないと後夜祭遅れちゃうんだからっ!」



にやにやとからかいの笑みを浮かべるのは謙也君。蔵君の真似してるみたいだけど、似てない。蔵君はもっとかっこいい。


文化祭は終わって片付けをしたら、後は後夜祭だけだ。それなのに謙也君がカップルコンテストでの話を蒸し返すから私は顔を真っ赤にさせてしまい、作業が進まない。



「白石も名字の前では骨抜きやな。あーごちそうさん」



一番好きな相手の表情は、なんていう質問で蔵君はさらりと答えていたけれど。俺のこと好きやって気持ちで真っ赤にしとる顔、なんてその言葉のせいで、私はその場で真っ赤になってしまった。

そしてその私を隠すように、繋いでいた手を引っ張られて抱きとめられた。人前で恥ずかしい気持ちもあったけど、結局そうなってしまえば最早顔を上げない方がいい気がしてきて私は大人しく蔵君の胸の中にいることにした。

そうしたら、蔵君は恥ずかしげもなくさっき謙也君が言った言葉を並べたんだ。それもすごく甘い響きのある妖艶な声で。おかげで体育館内が女の子たちの悲鳴で一時ざわつきを見せた。というかむしろ男の子でさえも蔵君を見てる気すらした。


ステージを降りてから蔵君に何を言っても、ただけらけらと笑って楽しかったって言うばかり。何だか蔵君が楽しそうだからまあいっかって思っちゃう私も、存外彼にぞっこんなんだと思う。





*****





後夜祭時は校舎には入らないように、と言われてしまえば生徒達が集まるのは必然的に校庭や体育館だ。自由参加だけれど、ほとんどの生徒が参加してるし、まだまだお祭りの空気は消えない。

校庭では食べ物や飲み物が売られているし、体育館のステージではバンドや漫才、ダンスが行われている。研究発表じゃなかったクラスの子たちは出し物で使っていた格好をしている人が多くて、コスプレしていたりカフェっぽい格好をしていたりしてる人、さらには女装している人、演劇で使った役の衣装など様々。かく言ううちのクラスも接客メンバーはほとんどがお化けで参加していた。その中には蔵君もいる。


あんなに狼男の格好を嫌がっていたけど、蔵君ももう慣れたのか何だかんだ楽しそうだ。いつもはどちらかというと大人っぽい蔵君も今日ばかりは少年のような笑顔で楽しんでいる。



「蔵君」
「どないした?」
「狼男、似合うよ」



どんなに周りが賑わっていても、耳を傾けてくれる蔵君。それが嬉しくてふふっと笑って、私より随分上にある頭を撫でてみる。柔らかい髪の毛が指に絡まりするりと流れていく。狼男のはずなのにちっとも怖くなくて、寧ろ愛しいとさえ思ってしまう。


蔵君はにやりといたずらっ子のように笑った。それから私を腕の中に囲い込んでがおーって言う。昨日のお昼はあんなに恥ずかしがっていたのにね。



「ほんなら、食べてまうでー」
「きゃー、食べられるー」



楽しそうになりきって抱きしめてくるものだから、私も一緒になって笑う。どう見たってカップルのいちゃつきにしか見えないのはわかっているけど、でも今日はいいよね。だってお祭りだもん。楽しまなくちゃ。

クラスはすごく忙しかったし、カップルコンテストは緊張したし恥ずかしかったけど、今年の文化祭は高校生活一楽しい文化祭だった。それは全部蔵君が私の隣にいてくれたから。



「あのね、蔵君」
「ん?」
「蔵君がいてくれて、今年の文化祭はとっても楽しかった!ありがとう!」



狼男の真似したまま抱きしめられていたから、今度は私から抱きついた。それから小さな声で今一番伝えたい言葉を、蔵君だけに聞こえるように呟いた。



「蔵君、大好き」