文化祭のオオカミさん | ナノ




我が四天宝寺高校の文化祭には、ミスコンやミスターコンなんてのもよく聞くけど、うちではカップルコンテストなるものがある。よくある話だと思う。自選他薦構わずエントリーして、文化祭前の準投票で選ばれた五組が文化祭当日本投票される。そしてそこで一番票を獲得したカップルが今年のベストカップルに選ばれる。ベストカップルは校内新聞に張り出され、それから来年の入学案内パンフレットにも載るらしい。そんなの普通生徒会とかじゃないのって思うけど、相変わらず遊び心溢れる楽しい学校だとも思う。

それで。何で私がいきなりこんな話をしているのかというと。



「えー、白石も名字も出る気ないん!?」



そう、謙也君だ。同じクラスの謙也君がカップルコンテストのエントリーシートを持って私たちの元にやってきたから。半年前から付き合い始めた私と蔵君の関係は、順風満帆。特に大きな喧嘩もすることなく、デートやイベントを重ねて順調なお付き合いをしていると思う。


蔵君のチームメイトでもある謙也君は、そんな私たちのことをよく知る人。それで彼は私たちが当然カップルコンテストに出場するつもりなんだろうと思ってエントリーシートを持って来てくれたわけだ。でもね、



「俺らそないなもん出るつもりないで。そんなん出とったら当日忙しくなるやん」
「あの、私もちょっと、そういう目立つのは…」
「ええ、俺は絶対二人がベストカップルやと思うんやけどな…」



こんなイケメンな彼氏とステージ上になんて上がってみよう。そんなの私なんかが彼女でごめんなさいっていう話になるよ。それに残念そうに言う謙也君には悪いけど、正直ベストカップルなんてどうでもいいんだ。蔵君はいつも私に優しくしてくれるし、私は彼のことが大好きだ。誰かにベストカップルなんて認めてもらわなくても、その事実があるだけで十分だって思えちゃう。





*****





文化祭一ヶ月半前。


何故か校内掲示板に張り出される私と蔵君の名前。成績優秀、眉目秀麗な蔵君が何かやらかしちゃったはずもなく、もちろん私も特に何かしてしまったわけでもない。そこに並ぶ名前の一番上には“カップルコンテスト予選出場者”の文字。友達に教えられた私は信じられない気持ちでそれを見上げていたのだけど、はっと気づいて慌てて私の隣にある名前の彼のところに走る。



「けーんや、あれはどういうことや?」



教室まで走って蔵君に近づけば、絶対零度の恐ろしい微笑みで謙也君に言い寄っていた。あんな蔵君見たことない。普通に怒られるより100倍怖い。でも多分蔵君が言わんとしてることは私が考えていることと同じことだろうから、黙って二人を見守ることにした。



「いや、え、俺は書いてへん!!書いてへんで、白石!!」
「ふーん。ほーん。ほな、生徒会会計のIQ200のKさんに筆跡がどうやったか聞いてみよか」
「すんませんしたぁ!!!!」



どうやら犯人は謙也君でビンゴみたいだ。カップルコンテストは生徒会主催で、エントリーや投票の集計は生徒会がやっている。生徒会会計は確か男子テニス部の金色君だったはず。彼はものすごく頭がいいからチームメイトの謙也君の字なんてすぐわかっちゃうんだろう。


つまり、謙也君の推薦で私たちはカップルコンテストに出場しなければならなくなったということ。更にいうなら予選という名の準投票を通過してしまえば、当日は二人でステージに上がらなければならない。



「蔵君」
「ああ、名前。スマンなぁ、このアホがエントリーしてしまったらしい」
「うん、聞いてたよ。あの、それで、これって辞退とかできないのかな」



私の提案に蔵君は今気づいたようで、立ち上がる。それから私の手を引いて教室から出ていく。どこに行くのかわからないままついて行くと、なんの躊躇いもなく着いた教室に入っていく。



「小春」
「あら、蔵リン、珍しい。それに名前ちゃんも。どないしたん?」



くねくねと動く彼は金色小春君。ついさっき蔵君と謙也君の会話に出てきていた彼だ。生徒会会計という役職のある彼ならもしかしたら辞退させてくれるかもしれない。私も蔵君もカップルコンテストに出場する気は全くないということを伝えると、金色君の眼鏡がキラリと光った気がした。



「蔵リンも辞退できへんことくらい知っとるやろ。それに二人は推薦の時点で何枚もエントリーシートでとったんやから」
「そこを何とか。チームメイトのよしみで」
「あ・か・ん」



ぱちりとウインク付きで断られてしまう。金色君ならもしかしてと思ったけど、やっぱりダメなものはダメみたいだ。


それにしても。謙也君以外にも私たちの名前でエントリーシートを出している人がいるなんて初耳だ。普通こういうのって本人達に聞いてから出すものじゃないのかな。私たちを推薦してくれるってことはいいカップルだと思ってくれているんだろうけど、それでも勝手にエントリーされてしまうのはやっぱり少し気分が良くない。



「はぁ…しゃーないか」
「そうだね……」



金色君のクラスを後にして二人で廊下に出る。頼みの綱の金色君に断られてしまえば、後はもう準投票で6位以下になることを祈るしかない。



こうして、私たちは予定外にもカップルコンテストに出場することになってしまった。