5


なんだったんだ、あの女は。


俺が良に話しかけたら慌てて走り去っていった。意味がわからねぇ。それともただ偶然そのタイミングだっただけのか。いや、あれは明らかに俺から逃げたように見えた。後ろ姿だったから顔まではわからなかったが、長いストレートの黒髪の女だ。
どことなくこの前屋上で俺とさつきを見ていたやつに似ていた気がした。そっちも遠くてはっきり顔がわからなかったから同一人物かと言われたら核心はもてねぇけど。



「おい、良」
「青峰さん!スイマセン!」



こいつのスイマセンは挨拶みたいなもんだ。だからというわけでもないが、俺は気にしてはいない。どうせしゃべらせとけばその間に何度もスイマセンって言うんだよ、こいつは。



「さっきの女誰だよ」



聞けば同じ中学出身で、名前を青山夏海というらしい。隣のクラスのようだが一度も見たことが無い。というか俺が隣のクラスのヤツに興味がないだけかもしれないけど。



「まぁ、いいわ。今日部活サボるからさつきのやつ引き止めとけよ」
「え、青峰さん!!」



俺はそれだけ良に言ってその場を後にする。もちろん良の呼びかけは無視だ。さつきに見つかる前にさっさと学校出ることが先決だ。俺にとってクソみたいな練習に参加させられるのは御免だ。

俺は中身のほぼ入っていない鞄を手に校門を出た。日向に出れば夏の暑い日差しが照りつける。ただでさえ気温が高くて暑いって言うのに、ぎらぎらとした日差しでさらに体感温度は上がる。立っているだけでも汗をかく。夏は嫌いじゃない。だが暑いのは嫌いだ。










すこしでも涼しくなったであろう夜にボールを持って俺は外に出る。心地いい夜風に当たりながら向かうのは公園。俺が昔から自主練をするときに使っているバスケットゴールがあるそこは夜になるとほとんど人はおらず、最適だ。

俺は軽くドリブルをしながらアップを始める。チームなんかでバスケをやる必要なんて無い。俺に勝てるのは俺だけだ。だから俺はもっと強くならなくちゃなんねぇ。そのためには部活のあまっちょろい練習じゃ物足りねぇんだよ。



カシャン…



俺が何本目かのシュートを決めたとき、背中に視線を感じた。相手に気付かれないように視線のほうに意識を向ければ、今日桜井と話していた女、青山がいた。ただ立ち止まって俺をじっと見ているだけ。



「おい、青山」



俺は練習の手を止めずわざと青山に視線を向けないで話しかけた。俺に気付かれていないと思っていたのか、びくりと反応して「ひっ」と変な声を上げた。




「そんなとこで見てないでこっちに来いよ」



俺は話しかけながらもう一度シュートを放つ。もちろんそのボールはゴールリングにきれいに収まった。いつかもこうやって誰かと会話をしながらシュート練習をしていたような気がする。それがいつだったか、誰だったかは覚えてないけど。



「…ごめんなさい!!」



ボールを拾って振り返れば青山は頭を下げて走り去っていった。




残ったのはボールを手に呆然と立ち尽くす俺と、夏の蒸し暑い静寂。