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彼は青峰君というらしい。そして年上だと思っていたのに驚くことに同い年だった。


呼ばれて、いいのかなと思いつつゆっくり近づいてみる。小柄な私だから体格のいい青峰君はとても大きく見える。



「お前、バスケ好きなのか?」
「…ぜ、全然わからないです」



ドリブルをしながらまたリングに目を移す青峰君になんだか申し訳なくなった。
私は運動はからっきしなのだ。もちろんバスケだって体育でしかやったことがないし、活躍なんてできっこない。



「なんだ、そうなのか」
「ごめんなさい…」
「別に怒っちゃいねぇよ」



怒っていないのはなんとなくわかったのだけれど。それでも謝らずにはいられなかった。
青峰君は全国大会にも出るほどのすごい選手らしくて、私がそんな人に近づいていいとは思えなかったから。



「お前は運動とかしねぇの?」



またしても華麗にシュートを決めながら私に尋ねる。青峰君の放ったボールは見事にゴールリングに収まっていた。それを拾ってきて私にボールをポンっと投げてよこした。
急なことに慌てて受け取ったボールを見て青峰君はくくっと声を出して笑った。



「運動、ほとんどしねぇみたいだな」
「な、なんで?」
「キャッチの仕方でわかる。お前ってどんくさそう」



悪気はもちろんないんだろう。本当のことだから別に反論もしようとは思わないけど。それに楽しそうだからいい。



「そうだね、体育でしか運動しないよ」



私は手に持っていたボールを両手で青峰君にパスをする。それを簡単にキャッチしてまたゴールに向かって投げた。
私には多分こんなに近くからでもシュートを決めることはできない。それを何度も正確に決める青峰君はすごいと思った。



「バスケ好きなんだね」



ポツリと呟いた私の言葉に青峰君は片方の口角を上げて優しげに笑った。きっとそれが答えだ。
そう思って次の言葉は予想していなかった。



「ああ、好きだな」



ボールに視線をやって嬉しそうに微笑む。


その言葉と表情に私は心を奪われたのだった。
私に向けられた言葉じゃないのはわかっている。それなのに私はその言葉に動揺したんだ。