act.4


「…」

「ただいまくらい言えないの?」



いつも通り黙って玄関を入ったら仁王立ちした名字が居った。



またか…。



うちに名字が居ることに慣れつつあるのは否定できへん。



もともと親が仲ええのは知ってるけど勝手に家を行き来するんはどうなんや。



別に俺らは仲ええわけやないし。



「俺の勝手やろ」



ため息をついて荷物を置きにいくために階段を上がる。



その後ろを何故か名字がついてくる。



「何やねん」

「今日は報告があって来たの!!」



照れたように頬を赤く染めて笑う。



嫌な予感。



「せやったら早よ報告して帰れ」



思ってもないことを口にするんは俺の性格上しゃーない。



好きな女に対してでも今更素直になれるはずがない。



「なんと、好きな人ができました」

「頑張りやー」

「心こもってないよ!!」



バシバシと腕を叩かれた。



心なんて込められるはずがない。



俺の気も知らんで。



俺はずっと前から好きやったのに。



そんなもんに全然気づかんで、また他の男のところへ行ってしまうんや。



「うちに居らんでその好きな奴んとこ行けばええやん」



俺はちらっと名字を見た後、部屋に入って勢いよくドアを閉めた。



そのままドアにもたれかかる。



ぐしゃぐしゃと頭を掻いて盛大に溜め息をついた。



それは餓鬼な自分に対してか、それとも鈍感な名字に対してか。



「何やねん…」



いつもあいつは俺を見ない。



部長の彼女になった時俺がどんだけ嫉妬したことか。



あいつは全然何も気づかへん。



確実なことが一つ。



名字は俺を男として見てない。



なぁ、俺に気づいてや。



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