act.19
また今日も名字は俺の家に来ていた。
もう前程驚きはない。
どーせ兄貴に入れてもろたんやろう。
「人のベッドで寝んな、アホ」
「いったー」
気持ちよさそうに寝とる名字の額にデコピンをする。
無防備すぎる。
「いーじゃん、いなかったんだから」
まだ痛いのか額をさすって頬を膨らます。
その頬を片手で潰すとぶふっと息が出た。
「汚ー。ちゅうかブサ」
「るさい」
短い髪を揺らして不機嫌そうに立ち上がる。
別に怒ってないやろうけど。
「着替える」
そう言って部屋から名字をつまみ出した。
別に着替える必要なんてないけど、一緒に居るのが辛い。
制服を脱いでTシャツにスウェットなんてラフな格好をして、引き出しを開けた。
そこには赤いピアスが転がっとる。
それを手に取って握り締めた。
告白…なんてできへん。
だって今あいつはフられたばっかりで傷ついとるのに。
俺が告白なんかしてどないなるんや。
「光。名前ちゃん送ってたりや」
階下から兄貴の声がした。
携帯だけ持って仕方なく階段を下りる。
ちゅうかあいつ何しに来たんや。
玄関では靴を履いた名字と兄貴が話してた。
「女の子がこない時間に危ないから」
「大丈夫ですよ。財前にも迷惑だし」
「ほんまや」
「光!!」
兄貴に窘められて、適当にスリッパを履いて外に出た。
名字の家はそう遠くない。
「ちゃんと送るんやで」
「わかっとるわ」
俺が歩く後ろを名字がついてくる。
二人とも無言。
「別れた」
家を少し離れたところまで来て唐突に言った。
「え?」
「だから、彼女と別れたんや」
名字は吃驚してか足を止めた。
そんな驚くことなんや。
「あんなに可愛かったのに」
「別に普通やろ」
ポケットに手を入れたら何かが手に触れた。
取り出して見るとそれは名字から貰た赤いピアス。
兄貴に呼ばれた時とっさに入れてもうたんや。
「それ…」
名字を無視して俺は何事もなかったようにポケットに戻した。
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