act.2



名字とは違う学校やから会おうと思わなければ会うこともない。



俺らはもともと仲が良いわけでも何でもない関係やから、高校入ってからはほんまに会わんくなった。



部長が付き合い始めた日、俺ん所に泣きに来て以来、また会わへんかった。



けどそれは日常で、別にさして不安に思ったりはしなかった。



「おじゃましまーす」

「勝手に入って来んな。何で居んねん」



でも変わったことが一つ。



何でか知らんが名字がうちに勝手にあがってくる。



実は家が近いことを最近知った。



「勝手じゃないもん。お兄さんに通してもらったんだし」



今日は日曜日で、部活も珍しくなかった。



外に出るのも面倒で部屋で雑誌見たり音楽聴いたりする予定やった。



それなのに名字がいつの間にか俺の部屋に居って、しかも我が物顔で俺の音楽雑誌を俺のベッドの上でパラパラとめくってる。



いや、何でそんなに自由なん?



俺かて健全な男子高校生やで。



それで好きな女がそんな無防備に居ったらいろいろ思うところがあるやろ。



「財前クン」

「あ?」



わざとらしくクンを付けてみて俺を見る。



いつもはクンなんかつけやしないくせに。



「この間はありがとう。泣いたらすっきりした」



雑誌を閉じて俺を見る。



あかんあかんあかん。



そんなまっすぐ見られたらやばい。



「ちゃんと蔵…先輩を諦める。お別れも言ってきた」



力無く笑うからきっとまだ吹っ切れてへん。



もし俺やったらそんな顔させへんのに。



どうしたって俺を見ないのは名字の心がまだ部長でいっぱいやから。



「蔵先輩より格好いい彼氏見つけるんだー」



ニコニコしてるのが空元気なのはわかってる。



でも今の俺には名字のためにできることなんてない。



「見つかるやろ」

「あれ、財前が優しいこと言ってくれる」

「うるさい」




自分が素直やないのはわかってる。



でも好きな女の前で素直になれるほど俺は大人やない。



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