act.16


Hiroin side



優しくされるのに耐えられない。



財前を好きになって、でも財前には可愛い彼女がいて。



学校の違う財前に会うことはめったにない私は彼女がいたことは知らなかった。



彼女がいる好きな人に優しくされるのはひどく辛い。



でもだからってやっぱり財前に会いたくて、会いに行ってしまう。



不満を並べるのにいつだって無視したりしないで接してくれる。



それが嬉しくて、でも苦しい。



私が泣いていれば頭をなでてくれる。



優しくしないでよ。



そうすれば嫌いになれるのに。



毒舌のクセに根は優しいから、きっとみんな彼を憎めない。



私もその中の一人。



財前を好きだと気づいて、彼がまだ私のあげたピアスをつけてるのを見て嬉しかった。



だからその赤いピアスとっちゃったのは悲しかった。



中3の時からずっとつけてたの知ってたから。



約束の期間を過ぎても財前はそのピアスを外さないでいた。



ただ気に入ってただけなのかもしれないけど。



でも蔵先輩と別れた今、あのピアスは私と財前を繋ぐ唯一のものだった。



なのにそれもシルバーピアスに変わってしまっていた。



「財前のバカ…」



私は膝を抱えて呟く。



あんなに可愛い彼女がいるのに、私に優しくしないでよ。



嫌いになれないじゃん。



諦められないじゃん。



「名字さん?どげんしたとね!?」

「千歳先輩!?」



千歳先輩が声をかけてきて驚いた。



珍しく授業をサボって屋上にいた私は授業中に屋上は誰もいないものと思っていたから。



「泣いとっと?」

「いや、大丈夫です。ちょっと目が乾いちゃって」



千歳先輩は私の前にしゃがんで目線を合わせる。



服の袖で涙を拭ってくれた。



「一人で抱え込んだらいかんとよ」



笑って私の頭をぽんぽんと叩いた。


千歳先輩は困ってると何故か現れて、いつも話を聞いてくれる。



「…財前が酷いんです」

「財前?」

「優しいんです」



ぎゅっと膝を抱く腕に力にを入れた。



「彼女がいて、私があげたピアスも外しちゃって。なのに優しいから嫌いになれなくて…」



せっかく千歳先輩が拭ってくれたのに涙が頬を伝った。



蔵先輩を諦めてやっと新しい恋に踏み出したはずだったのに。



また失恋か。



「財前はどうでもよか女の子に優しくするような奴じゃなかばい」

「でも彼女いるんですよ?」

「どーせ別れんね」



何か根拠があるのかはっきりと言った。



あんなに可愛い彼女と本当に別れるのかな。



財前と彼女が手を繋いでいた光景を思い出す。



指を絡めてしっかりと繋がれた手の映像が私の頭にこびりついている。



悔しいけど別れるなんて考えられない。



「あの2人が別れるはずないです」

「名字さんもまだまだ財前をわかっとらんね」



千歳先輩は下駄をカランと鳴らして立ち上がる。



そして意味ありげに微笑んだ。




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