act.15
「彼女さんとはどーよ?」
家に帰ると久々に名字が居った。
相も変わらず俺の部屋の俺のベッドでゴロゴロしとる。
無防備極まりない。
「別に。ちゅーか何で居るんや」
うつ伏せになって足をバタバタする。
埃立つからやめや。
しかも勝手に入ってくんな。
「別に」
「別に、ちゃうわ」
ここ俺の部屋やで。
何で我が物顔で居んねん。
「ざーいぜーん」
「うざ」
落ちてた雑誌を丸めて名字の頭を軽く叩いた。
痛いだの何だの文句を言うて喚く。
ほんまうるさい。
人の気も知らんで。
「またフられちゃったー」
ぽふっと俺の枕に顔を埋める。
そのまま動かないから寝てるんちゃうかと思ってもう一度雑誌で頭を叩いた。
「寝てないよ」
「泣いてんのやろ」
「だってさ…」
告白もできなかった、と呟いた。
好きな奴が出来たと思ったらもうそいつは別の女と付き合うてた。
しかもその女は自分より可愛いくて勝ち目がない。
だからフられた。
フられたっちゅーか届かなかった。
まるで俺と同じやな。
どんなに好きでも名字は俺を見ない。
「上手くいかないね」
「せやな」
「財前には可愛い彼女がいるじゃん」
「…」
本当は名字が好きなんやって言いたい。
そしたらこんな生殺し状態で居らんでもええのに。
「上手く、いってるじゃん」
上手くなんやいってない。
だって俺はみょうじを利用してんねんで。
「私だけ上手くいかない…」
泣いてる名字をほっとけへん。
手を伸ばしてそっと名字の頭に触れた。
名字の細い髪が俺の指に緩やかに絡まる。
「財前のバカ」
頬を染めて哀しそうな顔を背ける。
そんな顔すんなや。
俺が我慢できんくなる。
「自分に言われたないわ」
この時の名字の“バカ”の意味が俺にはわからんかった。
何でそんなん言うのかわからんくて、でも知りたくなくていつも通り適当に返した。
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