act.20
それからまた無言で歩いて、名字の家についた。
「ほな」
「ありがとう」
俺がもと来た道を帰ろうとしたら名字に腕をつかまれた。
わけもわからずに俺は足を止められて名字を見下ろした。
「もう大丈夫だから」
「何が」
「私、もう誰も好きになんない」
「は?」
「フられる度に泣いてごめん」
もう誰も好きにならんって俺にはほんまに可能性ないやんか。
好きになんないってなんやねん。
名字の頭に手を伸ばした。
くしゃっと撫でて溜め息をついた。
「人の気も知らんでよう言うわ」
「何…!?」
俺は名字の唇にに自分の唇を押し付けた。
すぐに離して抱き締めた。
「もうチャンスないなら今しかないやん」
少なくとも今は告白しないって思うとったんに。
名字がフられて傷ついとるのに取り入るみたいで嫌やから。
でも誰も好きにならんなんて言われたらチャンスは今しかない。
「俺がいつから名字を見てたと思ってんねん」
「財前…」
「それなのに部長と付き合うてみたり、他の男に惚れてみたり、ほんま何やねん」
ずっと見てた。
好きになったのがいつかわからんけど、俺がまともに話す女は名字だけやった。
気づいてなかっただけできっと最初から好きやったんや。
「ほんとなの…?」
声が震えとる。
触れられとるんがそんなに嫌なんか。
あぁ、もう名字には近づけへんかもしれん。
「私のこと…好きだったの?」
「好きや。でも応えはいらん。わかっとるし」
断られるのは知っとる。
想いを伝えられずに泣くほど好きやった奴に勝てるなんて思てない。
「もう帰るわ」
俺は名字を手放そうとしたのに名字は離れなかった。
「応え、聞いてくれないの?」
「聞かない。言わんでもわかる」
「私が誰を好きだったかも知らないで」
そんなん知るか。
知りたくもないわ。
好きな女が誰を好きやったかなんて知ってどないなるねん。
「光が好きだったのに…」
ポツリと呟いたのは聞き間違えやなければ俺の名前。
光って言うた、よな。
俺のこと名前でなんて呼んだこと一度もないのに。
「私は財前光が好きなの。応えも聞かないで決めないでよ」
ぎゅっと俺の服を握り締めてくっつく。
「…名前」
「うん」
「俺でええんか?部長みたいに優しないし、大人やないし、それに、」
「私は光がいいの。蔵先輩となんて比べてない」
真っ赤な顔で言う名前は可愛くて、俺まで顔を赤くする。
「後悔しても知らんで」
「しない。光が好きだから」
俺たちは見つめ合ってもう一度口付けをした。
END...
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