act.18
俺はみょうじを空き教室に呼び出して別れを切り出した。
「堪忍…」
「…ふふっ」
何故かみょうじは笑った。
「何で笑ってん?」
「わかってた。財前くんはやっぱりあの子が好きなんやろ」
すぐに肯定はできんかった。
だってそれはまるでみょうじをちっとも想ってなかったみたいやから。
「私からも、別れてください」
みょうじの口から出てきたのは意外な言葉やった。
「財前くんと付き合って、手繋いで、デートして、私はほんまに幸せやった」
俺の手を取って微笑んだ。
声は少し震えとる。
「ありがとう」
でもしっかりと俺の目を見て礼を言った。
何で、や。
俺は酷いことしたんやで。
せやのに礼言うなんて。
俺が謝らなあかんくらいなのに。
「あの子と上手くいくこと祈っとるから」
目に涙をためて必死に堪えとるのがわかる。
みょうじは最初からこの時を見越してたのかもしれん。
だから俺を名前で呼ぶこともなかったし、不安がる様子も見せなかった。
だから今みょうじの涙は見るべきやない。
少なくともみょうじはそう望んどるやろう。
「おおきに」
俺はみょうじを引き寄せて抱き締めた。
きっと最初で最後。
手を繋ぐこともデートをすることももうないやろう。
でもちゃんと好きやった。
名字以上に好きにはなれんかったけど、ちゃんとみょうじのこと好きやったんやで。
「さようなら…光くん」
みょうじは最後に一度だけ名前を呼んだ。
俺はみょうじから離れて教室を出た。
ドアを閉めると後ろからみょうじの泣き声が聞こえた。
俺の前では泣かんように堪えてた。
それはみょうじの優しさやろう。
もういっぱい泣いてええから。
ほんまにごめんな。
新しい好きな奴を見つけて幸せになってほしい。
俺が傷つけた分そいつと一緒に…。
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