act.14
名字に付き合うてるんを知られた。
それでなんやもうどうでもよくなった。
おめでとうなんて言われて、名字はほんまに俺なんてどうでもええんやなって思えた。
俺のことを見ない女なんかをずっと待つよりみょうじといる方が楽なんは当たり前や。
気づけばみょうじといて笑ってて自分の本当の気持ちがわからんくなってた。
「私のこと好きになってくれた?」
唐突にみょうじに聞かれた質問に俺は言葉に窮した。
「何をいきなり…」
「最近財前くん一緒にいてめっちゃ笑ってくれるから」
そんな嬉しそうに笑うなや。
俺はみょうじを好きにはなれてへん。
「さよか」
みょうじの質問には答えへんかった。
嫌いやない。せやけど多分好きでもない。
でもこのまま一緒に居ったら好きになるかもわからん。
その程度。
「財前くん…」
俺を見上げる大きな目がゆっくり閉じる。
俺も目を瞑ってみょうじの後頭部に手を回す。
俺とみょうじの距離がどんどん縮まる。
5センチ、4センチ、3センチ…
そこで名字の顔が頭を過ぎる。
俺はみょうじとキスなんてしてええんか。
好きやないのに。
みょうじにとって残酷な記憶になるんやないか。
俺が名字を想ってるのをわかってて、俺の唇を受け入れるつもりなんか。
やっぱりアカンわ。
俺はみょうじの肩を押して引き離した。
みょうじは見開いた驚きの目を俺に向ける。
「悪い…」
「あ、私こそごめん。待つって言うたのにね」
髪を耳にかけながら笑う。
そのみょうじの動作が気持ちを隠そうとしとるってことくらい俺は知ってる。
付き合って仰山みょうじを知った。
好きになれそうな気もした。
でも名字に会うてわかったんや。
俺はやっぱり名字を諦められへん。
どんなに新しい恋をしようとしても、どんなに想いを消し去ろうとしても、俺にはできない。
名字を俺のもんにしたい。
他の誰のもんにもしたくない。
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