act.12


みょうじとの付き合いは順調過ぎるくらいやった。



先輩らは相変わらずみょうじをよく思ってへんらしくてあまり話そうとはしないけど。



だんだん名字を好きな気持ちは薄れつつあるような気がする。



それはもう何週間も名字に会うてないからかもしれへん。



でもそれでも十分大きな進歩や。



今までなら心の片隅で絶対会いたいと思ってたはずやから。



「財前くん、行こ」

「あぁ。行く行く」



手をいわゆる恋人繋ぎで繋いで歩く。



今日はデートをしたいっちゅうみょうじに付き合う約束をしてた。



「で、どこ行くんや」

「財前くんはどこ行きたい?」

「決めてないんか」

「私は財前くんと居るだけでええの」



顔を真っ赤にしてまたそんな恥ずい台詞を…。



こっちが恥ずかしなるわ。



「どこ行きたい」

「え?」

「ついてったる」

「たまには優しい」

「うるさい」



頭をくしゃくしゃと撫でる。



俺の指が名字を思わせる細く少し茶色い髪を通る。



みょうじは髪型が崩れるだの文句を言いつつ嫌そうではなかった。



「財前…」

「…っ!?」



小さな声で呼ばれた気がしてみょうじの頭から手を離す。



紛れもない名字の声だと思ったらほんまに俺の前に名字が居った。



「財前、久しぶりだね…」



なまえ先輩以外の久しぶりの標準語。



それを聞いてほんまに名字なんやって思った。



「彼女さん…?」



名字の視線は俺たちの繋がれた手をとらえてた。



その手は勿論恋人繋ぎのままや。



「…せやで」



答えたくなかった。



俺に彼女ができたんを知って名字がどんな反応をするかなんて想像つく。



「そっかー。おめでとう!!」



あぁ、名字ならそう言うと思っとったわ。



おめでとうなんて言われても嬉しない。



心がぎゅうっとして苦しい。



やっぱり俺はまだ名字が好きで忘れられへん。



「邪魔しちゃってごめんね。私もう行くから」



笑ってるのに笑ってない。



何でそんな顔するんや