act.11
次の日の朝練の前に先輩らに尋問という名の呼び出しをされた。
多分昨日のことやろ。
俺に彼女が居ようが居まいが先輩らには関係ないんに。
「財前」
部室の空気がやけに重い。
部長、謙也さん、金色先輩が何とも言えへん顔で俺を見る。
「昨日の子、彼女か?」
「せやったら何ですか。俺の彼女が誰やって関係ないやないですか」
俺の答えを聞いて部長は眉間に皺を寄せる。
「それとも誰かみょうじに一目惚れでもしたんスか」
「冗談も大概にせぇよっ!!」
謙也さんが俺の胸ぐらを掴む。
なんで謙也さんがそんな怒るんや。
意味わからん。
「謙也、やめぇ」
部長の手が謙也さんの手を制して俺は解放される。
謙也さんは下を向いて俺は服装を直す。
「光くんは好きな子居ったんやないの?あの子なん?」
きっと金色先輩は俺の言葉の端々から好きな女が居ったんを悟ってた。
そして多分相手が名字なことも知ってたんやろう。
でも今はほんまのことは言えへん。
少し前の俺なら名字が好きなことを自白してたかもしれん。
せやけど今は状況が違う。
「せやから付き合うてるんやないッスか」
そんなわけない。
俺は名字を忘れるためにみょうじを利用してる。
みょうじは嫌いやない。
けど名字以上に好きではない。
「そう…」
金色先輩は目を伏せる。
別に俺が何したって誰と居ったってええはずなのに。
「光は名前ちゃんが好きやったやんか…」
謙也さんが今度は静かに呟いた。
鈍感な謙也さんでも気づいてたんや。
同じ中学やったわけやから気づいててもおかしないか。
「俺が最初に名前と別れてから財前が彼女作らないようになったんもそうやったからやないんか?」
この人らは全部気づいとる。
でも今俺は正直には絶対に言わない。
みょうじに努力するって言うたから。
「そんなん過去の話ッスわ」
わざと小さく笑った。
嘘をついてる自分がアホらしくて。
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