act.10
いつぶりに彼女ができたんやろう。
確か名字が部長と一回目に別れた時以来彼女居らへんかった。
あれが中3の冬で、今が高1の冬。
約1年ぶりの彼女や。
「財前くん」
「何で居んねん」
部活後に部室からでたらみょうじが居った。
「一緒に帰りたくて…アカン?」
首を傾げて笑う。
みょうじのそういう仕草は普通に可愛えと思う。
でもやっぱり名字と重ねてまう。
名字がやったらもっと可愛えんやないかとか考える自分は全く諦められてない。
「別に。行くで。先輩らお先ッスわ」
みょうじの手を引いて歩きだす。
「お、おい光!?」
謙也さんが後ろで呼んどるけど無視。
あれは多分部長と金色先輩あたりに彼女やってバレたな。
ぼんやり考えて校門を出た。
「急にごめん」
「ほんまや。メールせぇよ」
「うん」
頷いてきゅうっと俺の手を握る。
これが名字やったらどんなに嬉しいか。
あーあかんあかん。
忘れるんや。俺の今の彼女はみょうじや。
「財前くん」
「何や」
「財前くんが今考えとること当ててあげよか」
苦笑してるみょうじが思っとることは多分当たってる。
ほんま堪忍。
そんな簡単に気持ち変えられるほど俺はできた奴やないねん。
「いや…」
「待つよ。いつか私がええって言うてくれるん」
切なそうに笑った。
なんでこない苦しい思いしてまでみょうじは俺と付き合いたいんやろう。
自分を思ってない彼氏と居ったってつらいだけやん。
「堪忍な。努力、する」
「おおきに。そう言ってくれるだけでも私は嬉しいよ」
もう名字を忘れな。
あいつはどんなに待っても俺のもとへは来ない。
好きだと言うてくれるみょうじを悲しませるんは可哀想や。
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