act.9
今日はやたらと先輩らが絡んでくる。
朝練は低血圧な俺には少し億劫で、先輩らも俺が機嫌悪いん知っとるからあんまり話しかけてこない。
それなのに今日は朝からうるさい。
ほんま、何やねん。鬱陶しい。
「やっぱほら彼女がおってウハウハな白石なんて放っとこうっちゅー話や」
「ウハウハって何やねん」
「蔵ノ介、ウハウハしてんの?」
「してへんわ」
「光くんやって彼女欲しいわよねー」
「ま、小春はやらんけどなっ!!」
先輩らはどうしてこう喧しいんや。
「別に部長らはどうでもええし、彼女要らんし、金色先輩なんてもっと要らんッスわ」
着替えながら口を動かす先輩らを睨んだ。
普段から絡んでくるけど今日は異常や。
何かしたか考えたけど思い当たらへんし。
その何かを授業中もずっと考えてた。
あれほど先輩らが俺に絡んでくるんは理由があるはずや。
でも昨日から今日にかけて俺、何もしてへんし。
「財前くん、隣のクラスん子が呼んどるで」
「?わかった」
クラスの奴に言われて席を立って教室を出た。
ドアんとこに立ってたのは隣のクラスの図書委員で、名前はみょうじ。
わりと話すから他クラスで名前を覚えとる数少ない人物や。
「どないした」
「ちょっとええかな」
連れてこられたのは人気のない裏庭。
わざわざこんなとこまで連れてくる理由は多分あれしかない。
「私、財前くんのこと好きなんや。付き合うてもらえへんかな…」
薄々気づいてはいた。
委員会の当番が同じになる度にやたら話しかけてきとったし。
わかっていながらに突き放さなかったのはみょうじがどことなく雰囲気が名字に似てたから。
冷たくできなかった、が多分正しい。
普通の女なら面倒やから必要以上に関わらん。
どうでもええ話なら適当に流すし、むしろ話すことだって少ない。
「あんな」
俺は頭を掻いて顔を歪ませる。
「俺、みょうじには話したやろ。好きな奴居んねん」
委員会の仕事中にしつこく聞くから話したことがある。
名字のこと、俺の想いが届かへんこと、でも諦めきれへんこと。
「うん。でも無理なんやって言うてたやん」
あの時はまだ部長と付き合ってたから。
でも付き合うてない今もあいつは俺を見てない。
だから諦めようと決めてピアスも外した。
「最初は代わりでええから。好きになってもらえるよう努力するし」
努力…俺も諦める努力せなあかんのやろな。
ピアス外したくらいじゃ全然忘れられてへんし。
「財前くん、付き合うてください」
もう一度言われて俺は返事をした。
「…ええよ」
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