act.8



「帰りますわ」



俺は食うだけ食うて席を立つ。



名字と顔を合わせとるんは正直言ってつらかった。



「は?おい、光!!」



謙也さんの声も無視して店を出る。



寒くてマフラーを鼻まで上げて手をポケットに突っ込んだ。



冬なんか嫌いやわ。



「で、何でついて来てるん?」



少し離れて歩く足音に気づいてなかったわけやない。



ただ無視してた。



「いや…家同じ方向だし?」



急に振り返った俺に名字が気まずそうに笑って言う。



「ストーカー」

「ちがっ…」



シュンとする名字が可愛くて。



でも絶対俺のもんにはならんのやって思うとムカついて。



そういえば諦めるんやったってぼーっと考える。



「外しちゃったんだ」

「は?何を」



名字の指が俺をさす。



いやいや、そんなんでわかるか。



「赤いピアス…」

「あぁ、あれ」



言われてとっさに赤いピアスがあったところを触る。



今そこにあるのは昔兄貴から奪ったシルバーピアス。



別に気に入っとるわけでもなんでもない。



「自分には関係あらへんやろ」

「そ、だね」



無言。



何でそもそも追ってきたんや。



だいたい俺のピアスが変わったからなんやっちゅーねん。



ただの知り合いに何の関係があるんや。



「ざいぜ…」

「好きな男んとこ」



名字の言葉に重ねる。



勿論わざと。



もう声を聞きたくなかった。



その声で俺の名前を呼んで欲しくなかった。



他の男を想っとるくせに。



「行けや」



これ以上好きにさせんでくれ。



頼むから、諦めさせてくれ。



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