act.5
好きな男ができたと報告されて1週間。
名字はぱったり来なくなった。
まぁ、あんな態度とられたらわざわざ会いに来るわけあらへんか。
「財前」
「なんや、先輩か」
図書室で音楽雑誌をめくってたら話し掛けられた。
久しぶりに来たなまえ先輩は、違反物のはずの雑誌も注意しない。
タメ口も今更注意はされない。
付き合い始めてなまえ先輩は図書室に来なくなっとった。
理由は至極簡単。
部長が妬くから。
どう見たって先輩が他の男を受け入れるはずもないんに。
部長は相当先輩に惚れてるらしい。
「部長怒るで」
「部員だから大丈夫」
いつものように椅子を持ってきて俺の前に座る。
手にはそれもいつものようにペットボトルが2本。
1本を俺に渡す。
「頼んでない」
とは言いつつそれを受け取る。
くれるもんを断るなんて女のプレゼントやない限りしない。
「まぁまぁ。いろいろお礼よ」
「やっす」
「文句言うな」
お礼がペットボトル1本って安上がりすぎやろ。
そう思いながら封を開けて2、3口飲む。
「で、何しに来たんスか。まさかこれ渡すためやないやろ」
目的もなくここに来るはずがない。
何かある。
「うん…名前どうなった?」
「一応気にしてたんや」
「蔵ノ介も気にしてるよ」
名前を呼ぶのにやっと抵抗なくなったんやーとかどうでもええことが浮かぶ。
正直今は名字のことなんて考えたくなかったから。
「好きな男できたんやって」
「嘘!?誰!?」
カウンターから身を乗り出してくるなまえ先輩は前と全然変わらない。
図書室なのに静かにしようとさえせえへん。
「それがわかったら苦労しませんわ。けど、俺やないことは確か」
自分で言って、傷ついた。
何で名字は俺を選んでくれへんのや。
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