勘違い=嫉妬

関係が友達から恋人に変わった。それはすごく些細なことのようで、あまりに大きな変化。



「ひか……きゃああぁぁあ!!!」



付き合うことを決めたときにはキスもしたし、そもそももとから私は光の部屋に無断で上がり込んでいたくらいの仲だ。


そうは言っても、一度として着替えシーンにエンカウントしたことはなかったわけで。

光がれっきとした男だってこと忘れていた。ううん、忘れてたというか意識してなかった。


好きだけど、はっきりと男を感じたことはなかった。

もちろん私より身長はかなり大きいし、男の子であることは間違いない。けれど知り合ったのは中学の時だし、男の人というより男の子なイメージがあるの。

そりゃ蔵先輩と付き合っていた頃に、蔵先輩の腕とかを見て男の人だなぁって感じたことはあるけれど、光は同級生だしそんなこと思ったこともなかった。



いつものように光の部屋を開けたら視界に飛び込んできた体躯。引き締まっていて、かつ、テニスをしているにも関わらず何故か色白な身体。下はスウェットを履いていたけど、上半身が着替えの途中だったのか裸だった。


一瞬でも彼の身体を見てしまったことで恥ずかしくなって、思わず大声をあげてドアを閉めた。その場でドアに背を預けて顔を両手で覆う。


見ちゃった、光の身体。あんなに男らしいなんて反則だよ。



「うぅー…あんなのずるいよ」



イケメンでプロポーションも抜群だなんて。頭も悪くないし、運動もできるし、光はモテる要素だらけ。天は光に二物も三物も与えてると思う。



「何やっとんねん、自分」

「わわっ!!」



背を凭れていたドアが開いて私は後ろに倒れかける。完全に倒れなかったのは、光がそこにいたから。予期せず光の胸に倒れ込み、さっき見た光の身体を思い出す。


綺麗に筋肉がついていて、誰が見ても無駄な肉のついていない身体。普段の光からは想像がつかないくらい男らしくて、部活を頑張ってるってことがわかる。



「っと…」



倒れ込んできた私を軽々と受け止めて、すっぽりと腕に囲う。背中に触れる光の胸に思わずドキッとして、身を固くした。


だって、さっきのあの筋肉。否が応でも思い出してしまうさっきの光景。光もやっぱり男の人だと認識してしまった瞬間。



「ひ、光」

「ったく、いきなり声あげて出ていったかと思えば」

「ご、ごめ…」



呆れた声が頭上から聞こえて私のドキドキは静まっていく。たぶん光にとって上半身を見られることなんて特に何の意味ももたないんだろうし、それがたとえ私であっても変わらないんだろう。勝手に意識して馬鹿みたい。


光は私を離して飲み物とってくると階下に降りていった。

ドアの前にいるわけにもいかず、部屋に入るとおそらくさっきまで来ていただろう制服が脱ぎ捨てられていた。



「ふふ、こういうとこお子様なんだから」



笑みを零しながらそれらを近くにあったハンガーにかける。


思えば蔵先輩と付き合っていた頃はこんなことしたことなかった、あの人はいつだってスマートで完璧だから。こうして何かをしてあげたりすることはほとんどなかったと思う。だから今の方が光との距離が近く感じられて嬉しい。



「名前!」



いきなりドアが開いて名前を呼ばれてびくりと飛び跳ねる。振り返れば光が飲み物を持ってきたところだった。けれど、光はどうやらご機嫌ナナメ。さっきまで普通だったのにどうしたんだろう。



「今、何考えとった…?」



名前を読んだ声とは違う小さな声で問いかけられる。それも意図の読めない質問。


今…?

予期せず光の上半身裸を見て男の人だなって感じてあわあわしてたのに、部屋に入ったら脱ぎっぱなしにしてて子供な部分もあるんだなって。かっこいいのに可愛いなって。そして、やっぱり好きだなって思ってた所。

なんて言えるわけが無い。いくら彼氏相手でも恥ずかしすぎる。



「別に特には…」

「ええから、言うて」



強い瞳で見下ろされて、それでも言いたくなくて黙り込む。そんな私に痺れを切らしたのか溜め息をついて光が口を開いた。



「今…部長のこと、考えとったやろ……」



言いにくそうに、でもはっきりと言った。部長?蔵先輩のこと?ゼロとは言わないけど、私が考えていたのはほとんど光のことだ。



「やっぱりまだ、部長のこと好きなん?」

「え!?」

「今、なんやそういう顔しとった」



光は驚くことを言う。

私が蔵先輩のことを考えている顔をしていた?わけがわからない。そんな筈ない。だって私は光が好きで、蔵先輩はもう過去の人で今ではただの先輩なんだから。

それなのに、光は私の気持ちわかってないんだ。好きだってちゃんと伝えたのに。



「それどんな顔?」

「……」



私が逆に問い詰めるように聞くと光は黙ってしまう。言いたくないのか、形容できないのか。おそらく前者。



「ちがうもん…」



私は蔵先輩のことを考えて好きだって顔はしない。



「私は光のことを考えてたんだもん。光の身体見ちゃって男の人だったんだなって思ってドキドキして、でも制服脱ぎ散らかしちゃって実は子供っぽい所もあって、等身大の光が近くにいるって嬉しいなって。やっぱり光が好きだなって思ってたのに。蔵先輩はもう別れたし、好きじゃないし、ただの先ぱ…」

「ストップ!!わかった、もう、わかったから…」



見れば真っ赤な顔で私の独壇場を制する。その真っ赤な顔に私は笑いがこらえられなくてクスクスと笑う。



「顔真っ赤だよ、光」

「…誰のせいやねん」



ぐいと引っ張られて光の硬い胸に閉じ込められる。次は、わたしが顔を赤くする番だった。





みつ様、リクエストありがとうございました!

遅くなって大変申し訳ありません。「一途に」が大好きと言っていただけて嬉しかったです(^ω^)
このお話は白石の元カノを幸せにしてあげたくて書いたお話だったので、財前との幸せな時間を書けて楽しかったです。

更新速度は遅くなっていますが、またお暇なときに覗いてやってください。

2014/09/29 由宇

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