ひと休みを二人で

一ヶ月前に突然私の前に現れて、告白してきた跡部。当然誰もが知る彼を私も知らない訳はなかったけど、特別な感情は持っていなかった。

そのはずだけれど、こんなに美男子なのだから近くで見ていたら多少の特別な気持ちも持つ。そしてそれが好きに変わるのも当然のことのように思えた。


一言で言うなら、跡部という男はつくづく甘い。

言葉から行動から、跡部の想いが伝わってくるし、思わず応えたくなってしまう。そう思った時点で、私はもう跡部の甘い罠に嵌っていたんだと思う。

そしていつの間にか、私は跡部を好きだとしっかり自覚するようになっていた。



絶対的なカリスマ性と溜息をつきたくなるほどの美貌を兼ね備えている、氷帝学園生徒会長兼男子テニス部部長、跡部景吾。才色兼備を具現化したような人物。どんな時でも自信に満ち溢れていて、弱さを見せない。それが彼の強さでありアイデンティティーかもしれない。

そんな跡部を彼女という立場となって近くで見るようになって気づいたの。跡部には休みがない。たまには休んだっていいと思うの。


そう、例えば私の前とか。



「まだ終わらないの?」



生徒会室の入口に寄りかかって、奥の椅子に座る跡部に声をかけた。


一年で最初の行事である春の体育祭が近づいている為に、跡部は最近忙しそうだ。

各学年各クラスからの企画案やらなんやらをまとめたり、体育祭の役員との会議だったり。それに加えて、テニス部の方も大会が近づいているらしく、毎日放課後は部活だ。しかも朝練までしている。

いったいいつ休んでいるのか。とても休んでいるようには見えないのに、跡部は疲れも見せなければ、弱音も愚痴も吐かない。



「ああ、まだだな。先に帰るなら送らせるが?」



書類から目を離すことなく、私の質問に答える。

ちゃんと私だと認識はしてくれているんだろうけど、視線をくれる暇もないのか。


跡部に気づかれないように小さく息を吐いて、生徒会室に入る。跡部のいる奥の机からは少し離れた、来客用にも見えるふかふかのソファーに勝手に腰掛けた。



「ううん、待ってる」



ここに来たときは決まって跡部を待つときだ。そしてその時必ず私はこのソファーに座る。

跡部に気を使わせないように、しかしそれでも近くに感じられるように。真剣に生徒会長としての仕事を全うする跡部をぼんやりと眺めた。










跡部を待っていてどれくらいたったのか。気づかないうちに眠っていた私は頭に妙な重みを感じて目を開けた。霞む視界がはっきりしてきた時に視界に入ったのは、生徒会室が横になっている光景。

何でだろうと思って横を向いたら、跡部の彫刻のように綺麗な顔が真上にあった。びっくりして目を見開くけど、跡部は目を瞑っていてぴくりとも動かない。



「寝てる…?」

「……」



私は跡部の膝の上に頭を置いて寝転がっていて、その私の頭の上に跡部の大きな手が置かれている。感じた重みの正体は跡部の手だったらしい。

知らぬ間に寝ていた私はどういう経緯か跡部に膝枕をされて、当の跡部ももう片方の手で頬杖をついて眠ってしまっている。


ころりと寝返りを打って、横向きから上向きに変える。下から手を伸ばして跡部の頬に手を当てた。


いつものきりりとした表情は息を潜め、瞼はそのアイスブルーの瞳を完全に隠している。そこには僅かに疲れが見えて、気持ちよさそうとまでは言えないけれどぐっすり眠っているように見えた。



「やっぱり疲れてるんだ」



もしかしたら本当なら今みたいに会いに来るのも邪魔なのかもしれない。それでも、私は跡部に会いたいし、できることなら跡部にもそう思って欲しい。



「何もできないのはわかってるんだけどね」



好きでもなかった跡部をこんなにも好きになっている自分が信じられないけど、今ではもう本当に大切な人だから。最近の跡部はとても心配になってしまう。


跡部の膝から上体を起こして、眠る彼の頬に優しく触れるだけのキスを落とす。

立ち上がったその時に手を掴まれて、びっくりして固まると私を上目遣いで見上げる跡部がにやりと笑っていた。



「俺様の寝込みを襲うとはいい度胸してるな」



その顔に疲れは見えない。それどころか新しい玩具をもらった子供のように輝いて見える。



「や、そういうわけじゃなくてっ!!ていうか起きてたなら声かけてよ」



慌てて否定するも、跡部はふんっと鼻で笑って掴んでいた私の手の甲に、王子様のように唇を落とした。柔らかで熱い唇を感じて私の体温が急上昇する。



「名前は何もできなくねぇ」



ぐっと手が引かれて、跡部の胸に抱きとめられた。抱きしめられた格好で跡部は続けて囁く。

それも私の耳元で、とても色っぽい声で。



「俺を癒せるのはお前だけだ」



その低く甘い声に恥ずかしくなって私は跡部の腕から飛び退いた。

真っ赤になって座っている跡部を見下ろすと、くくくっと愉しそうに笑っていた。



「だが、次はここにお願いしたいものだな」



形のいい唇を指して、挑発するように見上げられた。



やけに艶めかしいその表情につられるように私は、いつもより僅かに色の濃いであろう唇を押し付けた。







暖様、リクエストありがとうございました!

リクエストの「ヒロインに甘くてデレッデレな跡部」になってないね、ごめんなさい。私のこと創作力ではこれで精一杯でした。
はるちゃん、いつもサイトに来てくれてありがとう!こんなサイトなのに大好きだとな憧れだなんて言ってもらえて涙出そうだよ、いや出てるよ。
うちにはあまり跡部はいないけれど、たまに突発的に書いたりするかもだからその時は批評してやってください笑

またお時間あるときにでも、試書にいらしてください!

2014.05.25 由宇

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