理解者な君

初めてできた彼氏はものすごくかっこいい。年下だと思えないほどに。大人びていて、クールで、それでいて私にはとても甘い。



「名前さん、お待たせしました」

「ううん。急いで来てくれたんだね、ありがとう」



光君の部活が終わるのを待って一緒に帰るのはよくあることで、そういう時はいつも私の家まで送ってくれる。遠回りになっちゃうからいいよって言ってるのに、光君は優しい瞳で言うの。



「俺が少しでも名前さんと居りたいだけやから」



そう少し照れたような顔で言っては手を絡め取り、すぐさま恋人繋ぎにしてしまう。そして私もその手を握り返す。



「財前、携帯忘れとった…って名字やんか」

「お疲れ様、忍足君」



光君の黒い携帯を手に部室から現れたのは忍足君。彼は私のクラスメイトで、ド派手な金髪とは裏腹にとても優しい男の子。


同じクラスになった当初、金髪というだけで怖がっていた私にいきなり声をかけてきたくらいだ。話してみるととても気さくで、怖がる必要なんて全くないほどのムードメーカーだ。

そんな彼と知り合って部活の話をたくさん聞いているうちに知り合ったのが、後輩である光君だった。

正直光君の第一印象は、忍足君の時と同様で、不良みたいなイメージだったけど、そんなこともなくて。私たちの近づくスピードは想像以上に速くて、気がつけば好きになっていた。そんな私に告白してくれたのは光君で、学年が違うからいろいろ不安とかもあるけれど、円満に付き合っている方だと思う。



「すんません、気づきませんでしたわ」



忍足君から自分の携帯を受け取ってすぐに学ランのポケットにしまう。そんな光君を見て忍足君は、にやにやとした顔。



「今日はえらい素直やなー。名字の前では毒も吐けへんっちゅーことか」

「謙也さんごときを視界に入れる暇なんてあらへんだけッスわ」



言葉通り光君は忍足君を視界に入れることなく、私の手を引いた。そのまま帰ろうとするから私はぎゅっと手を握ってそれを阻止する。



「光君」

「…すんません」



そこでちらりと忍足君を見て、またぐいぐいと私を引張る。


光君が本気で忍足君をそんな風に思っていないことも、これが彼なりの慕っている気持ちの表現なのもわかってはいるけれど。でもそんなにツンツンしちゃいけないと思うの。



「財前も名字さんの前では牙を折られた獣やな」



部室から現れた、私のもう一人のクラスメイトの白石君がくすくすと笑っていた。



「部長、うざ 」

「光君」

「…くない」



こんな私たちの姿を見てクラスメイトの二人はニヤニヤくすくす。光君はと言えばバツの悪そうな、拗ねているような顔をしている。下からその顔を見上げるとふいっとそらされた。そんな行動が可愛くて私も笑ってしまう。



「二人ともお疲れ様。気をつけて帰ってね」

「名字さんも気ぃつけて帰りや」

「隣の獣に襲われんようにな」



忍足君の最後の言葉を聞き終わるか終わらないかの時点で、私は光君にぐいっと引かれて帰り道を歩き出していた。

校門を出て、私の家の方向に進むも、光君は何も話そうとしない。私の一歩前を歩いていて顔を見せてはくれない。



「光君」

「なんスか」

「隣、歩きたいなぁ…なんて。えへへ」



立ち止まってはくれたものの私の隣に来ようとはしないから、私から光君の隣に一歩踏み出した。そして横顔を見上げるとこちらを振り向いた光君と目が合った。

あまり表情が変わらない光君のほんのちょっと寂しそうな顔。



「呆れとります?」

「ううん、わかってるよ。大丈夫」



そう笑顔で言うと眉を下げてへにゃりと優しい顔をする。この顔は私にしか見せない顔。光君は誰の前だってこんな緩みきった顔をしない。私にだけ甘えてくれている証。


光君が忍足君や白石君にどんな態度をとったところで私は呆れたりなんてしないの。だって知ってるもん。光君は本当は二人のことが大好きなんだって。器用で何でもできそうに見えるけど不器用なだけなんだよね。



「名前さんには適わへん」



それから繋いでいる手が引かれて、吸い込まれるように光君の腕に包絡めとられた。ドキドキという光君の心音が直に聞こえて私までドキドキしてしまう。それでも温かくて落ち着く。



「あはは、私強いでしょ」



冗談で返すと光君はにやりと笑って、私に絡まる長く筋肉質な腕に力を入れた。



「痛い痛ーい!ギブアップー!」



私が騒ぐと可愛く破顔して耳元で囁いた。それも低くてやけに色気のある声で。その言葉で私は顔から火が出るほど真っ赤になったのは二人だけの秘密にして欲しい。



「名前さん…めっちゃ好き」



そう言いながら光君の耳も真っ赤になっていたのは、二人のクラスメイトには内緒にしてあげるね。






姫羅様、リクエストありがとうございました!

企画ページをあげる数日前にメールをくださった方ですよね!覚えています!とても嬉しかったので!
初めてこういった企画に参加したのがうちなんかで良かったのかな、とは思いますが精一杯書かせていただきました。
「虚ろな世界の中で」の財前とはまた違った甘い財前になっていますでしょうか。財前らしく書けているかは不安なところです。

これからもお暇な時間に試書に足を運んでいただけたら嬉しいです。

2014.5.6 由宇

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