いつか君に話せたら

俺の好きな女の子は、好きな男が居る。その好きな男にも好きな子が居る。2人の想いのベクトルは向き合っとらん。俺は2人とも好きやから、両方に幸せになって欲しい。


とは思うんやけど。俺かて聖職者やない。俺はやっぱり自分の気持ちを優先してまう。



「し、らいし君にはね、好きな子居るんやって」



二人きりの夕暮れの教室。隣の席に座って話を聞く俺には全て想像できとった結果。


辛そうに顔を歪めて、それでも涙を堪えながら俺に告白の結果を言うてくる名字。

告白してまえと言うたのは俺。軽い気持ちだったのもあるけど、結果はわかっとった。名字が白石にフラれる。この一択や。白石には好きな子が居るから。


名字が白石のことを好きなんをわかってて、俺は白石の恋を応援しとった。俺は器用な方とちゃうから特に直接何かしたわけやないけど。白石の話を聞いて励ましてたんは確かや。

それは親友やからとか部活のチームメイトやからとかとはちゃうくて。ただ単に、俺の恋が、俺の名字への想いが実って欲しいっちゅー願望のため。

名字が白石とくっつかんかったら、もしかしたら俺にもチャンスはあるんちゃうかって浅はかなことを考えただけや。



「フラれて…し、もたっ…」



名字は俯いて黙り込んだ。肩が震えて、名字の机に黒い染みが落ちた。

泣いとる。名字が泣いとる。

その涙が白石を思ってなんはわかっとるけど。それでも無性に抱きしめたくなって手を伸ばした。


せやけど、俺がそんなことをできる筈もなく。ただ隣の席に座る名字の頭を撫でるだけしか俺にはできへんかった。柔らかな髪を手の平に感じながらゆっくりと撫でる。次第に名字はしゃくりを上げて泣き出して、どないしたらええんかわからんくなった。



「おしっ、た、りくっ…ふっ…」



胸の前で自分の手を握り締めて、泣いとる。堪えとった涙が堰を切って流れ出し、名字の頬を滑っていく。泣きやもうとしとるんやろうけど、それがかえってしゃくりをあげる原因になっとるのは明々白々。


泣いたってええのに。好きな男にフラれて辛くないわけはないし、しかもそいつに好きな奴が居るんやから尚更。我慢せえへんで泣けばええ。俺はいつだって名字を包み込む準備はできとるから。



「名字、我慢しないで泣けばええんやで?ここには俺しか居らんから。泣きたいだけ泣いてええんやで?」

「あ、ぐすっ…りがっ、と…」



名字はありがとうと言うて力なく笑うけれど。こう仕向けたのは紛れもなく俺。


部活が休みの日を教えて、白石を呼び出させたのも。フラれるのがわかっとって、万が一フラれたら慰めたるからって言うたんも。そして案の定白石にフラれて俺のところへやってきた名字が、こうして泣いとるのも。


全部、全部俺のせいや。俺が仕向けたこと。



「名字は自分を好きになってくれへん男を失っただけやけど、白石は自分を好いてくれとる女の子を失ったんや」

「…う、ん?」



立ち上がって名字を見下ろす。

やっと涙がおさまってきた赤く潤んだ目で俺を見上げる。あかん、可愛ええ。



「つまり、白石が見る目なかったちゅー話や」



ついに俺は名字に手を伸ばした。ばくばくと鳴る心臓に気づかれへんように、そっと名字の頭を片手で引き寄せた。



「忍足、くんっ!?」



驚いて俺の顔を見上げようとする名字を、自分の胸にぐっと押し付けて阻止する。

俺、絶対今顔赤い。自分で招いたことやけど、好きな子がこんなに密着しとるんやし。それに何や柔らかくてええ匂いまでする。



「せやからな、つまり、なんちゅーか、うーん、」



言葉の続きが思い浮かばんくて意味のないことを羅列してまう。

ほんまやったら、俺かてここで告白してまいたい。抱きしめてても抵抗がないっちゅーことは少なくとも嫌われてるわけやないやろうし。ただ、名字はフラれたばかりやから。俺が今告白したところで、結果はわかっとる。


せやから少しずつ。時間がかかってもええから。白石への気持ちを過去にして、俺へその気持ちを向けてくれたなら。その時は俺は、俺のできる最大限の愛を名字に、



「ふふふ」

「へ?」



下からクスクスと笑う笑い声が聞こえて思わず見下ろすと、いつの間にか力が緩んどったんか、俺を見上げる名字と目が合った。


しししししし至近距離すぎるっ!!想定外や。こない近くで目が合うなんて今までの友達関係やったら有り得へん。って俺が勝手に名字を抱きしめとるんやから、俺のせいや。あかん、どないしよ、目見られへん。



「忍足君、心臓早すぎ」

「え、あ、や…それはやな、そら、あれやん」



すっと俺から離れてにこにこと見上げてくる。さっきまで泣いとったんが嘘みたいに、いつもの笑顔やった。



「忍足君は優しいね。堪忍ね、慣れないことさせて」



今度は名字が俺の手をとって両手で包み込んだ。それからフラれたばかりとは思えへん程の綺麗な顔で言うんや。



「ありがとう、謙也君」



笑顔で名前を呼ばれてドキリとした。

俺はありがとうなんて言われるようなことしてへんのに。いつか、この日のことを話せる日がくるんやろうか。名字は許してくれるやろうか。



ほんまごめんな。せやけど、名字のこと、めっちゃ好きやねん。





豚トロ様、リクエストありがとうございました!

危うく悲恋になるところでした。危ない危ない。無理矢理ハピエンにもっていって見ましたが、どうも謙也君が黒過ぎて笑
リクエスト通りになっているかは微妙なところですが、久しぶりに謙也を書けてとても楽しかったです。次に謙也を書くときは純情ピュア少年にしたいかな。ブラック謙也は封印します。

これからもお暇な時間に試書に足を運んでいただけたら嬉しいです。

2014.5.6 由宇

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