午前最後の競技が終わり、白石君と謙也君がうちらを探してやってきた。


千紘は午前中だけでもめっちゃ楽しそうに知り合いである主にテニス部を応援しとった。100m走の謙也君やら二人三脚の漫才師のような二人組、組体操で一番上に登る元気な男の子、他にもたくさん。

いつの間にか千紘は四天宝寺のテニス部と随分仲良うなってたみたいや。



「ちょおお手洗い行ってくる」

「名字さん場所わかる?」



四人でご飯を食べている時に立ち上がった。白石君に気遣われるが、少しでも千紘とおりたいやろうし、多分大丈夫やろ。

うちは頷いて三人の元を離れる。


想定内やけども女子トイレは混んどった。戻るのに時間がかかることを千紘に連絡をして、携帯を弄りながら待っていた。



ちー[午前の部終了ー!なかなかおもろいから午後にも期待や]



率直に感想を言うんなら予想外やった。

ただの付き合いで来ただけやしそないに期待もしとらんかったんやけど、まぁ面白い。知り合いやって白石君と謙也君だけやのによくこんだけ楽しめると思う。



「さ、早う戻らな」



真っ直ぐ戻ろうとするんやけど、というか戻っとるつもりなんやけど。一向に三人の元につかない。


あれ、迷った?迷ったんか?真っ直ぐやったと思うんやけどな。こっち?いや違ったかな。



「あーあ、おらん。どこやっけ。面倒になってきた」



周りを見れば、人、人、人。あかん、体育祭ってこんなに人居るもんなんや。体育祭は平日にやって文化祭もチケット制の女子高やとこんなに人がおるんわありえへんわ。



「あんた」



帰り道がわからず千紘へ連絡を取るために電話をかけようとした時、後ろから男子らしい低い声がうちの耳に届いた。ナンパみたいな声のかけ方やな。体育祭でナンパなんてするん勇気あるな。


「あんたやって、あんた」



腕を掴まれて振り向かされる。え、あんたってうちのこと!?こんな人知り合いにおらん。むしろ男子の知り合いなんてめっちゃ少ない。


せやからうちはその手を思い切り振り払って、少し上にある顔を睨んだ。


今時風のツンツンの黒髪。それはおそらくワックスかなんかでセットされとって。綺麗な顔に高い鼻とつり目。そしてもっとも大きい印象を残したのは、両耳に異彩な存在感を放つ色とりどりのピアス。

明らかにガラが悪い。それは誰が見ても明らかや。そんな人がなんでうちに。



「あんた、部長の彼女の知り合いやろ」

「部長?」

「白石部長」



つまり部長=白石君で、この男子はテニス部の部員、か。そして、部長って言うとるから恐らく年下。



「迷ってるみたいやから声かけたったんにそないな目されるん心外やわ」



眉間に皺を寄せて、むすっとする。上からそんな顔をして見下ろすもんやから、ほんのちょっとやけど怖く感じる。どうやらテニス部の彼は困っとるうちを見つけて声をかけてくれたらしい。見かけによらず優男や。誤解してもうて悪いことしたな。



「誤解して堪忍。君、白石君たちどこに居るかわかる?」

「…こっちッスわ」



何か言いたそうな顔をして、それでも何も言わずに白石君たちが居るらしい所へ連れていってくれる。


着いていくと段々見知ったような場所に出る。その先に白石君と謙也君、千紘が見えた。うちらに気付いて白石君が手を挙げてくれる。



「あ、名字さん!!良かった、迷っとんのか心配してたんや」

「迷っとったらお宅の部員さんが助けてくれたんや。ほんま助かった」



うちを連れてきてくれた男子は表情を変えずに別に、と一言言うた。



「財前が人に親切にするなんて意外やな。何の心境の変化や」



謙也君がにやにやとして、後輩君を見る。謙也君より僅かに背の低い彼は謙也君をほんのちょっと睨み上げ、呆れたように溜め息をついた。



「さっき部長の彼女と一緒に居ったん見たから連れてきたっただけッスわ」



ほな、と会釈をして背を向けてグラウンドに帰っていく。どうやらほんまにうちを連れてくるだけが用事やったらしい。助かった。


せやけど、そんなことより何かうちの中に引っかかるものがあるような気がする。なんちゅうか、ボタン掛け間違っとるような気持ちの悪さ。何やろう。



「白石君、さっきの後輩君に後でお礼言っとてや」

「ん?ああ、ええけど。財前は多分そんなん気にせえへんと思うで」



白石君はにこりと笑う。それに続いて謙也君もそやなと相槌を打った。
ああ、また。何や、なんなんや。きっと些細なことなんやろうけど気になる。何かがうちの中で訴えとるんに、それが何かがわからへん。



「…あっ!!!」

「わっ!!名前ちゃんどうしたの、急に声上げて」



うちの隣に居った千紘の反応を見て口を噤んだ。


何かが舞い降りた気がしたんや。それはまるで突風で心のもやもやが飛ばされてしもうたような。引っかかっとった原因はこれやったんや。


「いや、堪忍。はは、何でもあらへん、何でも」


わかった。この妙な落ち着かなさの原因。

そうか、そうやったんや。

財前。その響きに聞き覚えがあったからなんや。



もしかしたら、財前君はひかるかもしれへん。