確かな気持ち。 名前も顔も何も知らない存在に対する一つの明確なもの。 もしきっと全てを知ったなら、もっとこの気持ちは大きくなるんやろう。 ひかる[善哉食いたい] 部活終わり、最早定期の如くTwitterで呟くのはこの言葉。140字以内で独り言を呟いたりリプライで会話をしたりできるSNS。こんなにハマるつもりはなかったんにいつの間にか携帯を手にして呟いている俺がいる。完璧に中毒や。 そして、その言葉に反応をくれるやつがおる。 ちー[つ善哉] 俺のフォロワーの一人である"ちー"という人物。こいつについて俺が知っとる情報は二つだけ。性別、住んどる地域。女で、関西に住んどるらしいということ。たったこれだけ。それやのにいつの間にか仲良うなった。 ひかる[@ちー 腹減った] ちー[@ひかる ご飯なう] ひかる[@ちー 飯くれ] ちー[@ひかる やだ( ̄∀ ̄)] 出会ったのは勿論Twitter上。俺がTwitterを始めたばかりでまだアカウントに鍵をかけとらんかった頃のこと。確かどこかの甘味処で善哉を食べたんを画像付きでツイートした。そのツイートに来たリプ。リプ欄で確認すると知らん奴。そいつのホームに飛んでみるも、知り合いで思い当たるやつはおらん。しかも、 ちー[@ひかる うちのが美味しいですもん!] 画像付きで送られてきた、やや対抗心を表したリプやった。辛うじて敬語ではあるが、知り合いでもないやつにいきなりリプを、しかも画像付きで送ってくるやつなんてあまりおらんのやないかと思う。確かにその画像にある善哉も美味そうやったけど。 ちー[@ひかる あ!初めまして!美味しそうな写真があったのでついリプ送ってしまいました(;・∀・)] 何か返すべきか迷っていたところに来た新たなリプ。俺は即座にそれに返信をした。 ひかる[@ちー 初めまして。美味かったです。ちーさんの画像のも美味そうですね] ちー[@ひかる いきなりすみませんでした。美味しかったですよ(*´∀`*)ひかるさんは甘いものお好きなんですか?] ひかる[@ちー 甘いものというより善哉が好きなんすわ] 初めてリプで会話をしているのにちーとの会話は弾んで、フォローしあい、タメ口になり、呼び捨てになった。そして今に至る。今では多分一番仲のいいフォロワーや。 俺のアカウントは本アカやし、主に男子テニス部やらクラスメートやらの知り合いにフォローされとる。名前も顔も知らん相手はちーだけ。今では鍵をかけてしまっとるから、知らん奴からいきなりリプが来たりはしないし、知り合いとは本名でやり取りしてることもあるからちーは俺の名前くらい知っとるかもしれん。 一方ちーのアカウントは本アカなんかは知らんけど、一つも本人が特定できる情報は載っていない。それにフォロワーにもどうやらTwitter上の付き合いのやつがほとんどみたいでリア友らしき人物は見当たらない。 俺からしてみれば、ちーはかなり不思議なやつやった。その不思議なやつとこんなに仲良くしとるのも不思議やけど。 ひかる[@ちー ケチやな] ちー[@ひかる 仕方ないな( ・´ー・`)] イラっとくる顔文字と共に送られてきたのは食いかけの唐揚げの写真。恐らく今ちーが食っとる晩飯やろう。あかん、余計に腹へった。部活後でただでさえ腹減っとるんに、唐揚げなんてもん見せられたら我慢できへんわ。唐揚げ食いたい。 ひかる[離脱] Twitterのアプリを終了して、ポケットにしまう。今俺の頭を占めるのは某コンビニのからあげクン。 「謙也さん、ちょおコンビニよって帰ってもええですか」 「ええで。どないしたん?」 「唐揚げ…食いたくなったんスわ」 俺は次の謙也さんの言葉を聞かずにコンビニの自動ドアをくぐった。 まっすぐレジに向かって唐揚げを購入。そしてすぐにそれに携帯のカメラを向けた。写真を撮ってからあげクンの仕事は終了。俺は唐揚げを一つ口に放り込んで咀嚼する。そしてその傍ら左手は携帯を操作。勿論開くのはTwitter。 ひかる[唐揚げなう] 「もう満足したんで帰りましょ」 また一つ唐揚げを口に入れると隣から手が伸びてきた。伸びてきた手の方に袋を傾けて謙也さんにも唐揚げをお裾分けする。その行動が意外やったのか謙也さんは少し驚いた表情をして、それから笑って唐揚げを一つ摘み上げた。 「機嫌ええな」 「食わへんのやったら返してください」 「食う!食う!!」 謙也さんはすぐに摘んでいた唐揚げを口に入れる。 いつもやったら俺が謙也さんに何かを一口あげたりすることなんてない。せやけど俺は今すこぶる機嫌がええ。 ちー[@ひかる おそろいやー] ひかる[@ちー せやな] ちー[@ひかる ひかるとおそろい嬉しい( 'ω')] |