どうして。どうしてばれたんやろう。


確かに関西に住んどることは口調からわかっとったかもしれへんけど、関西弁使うてる地域なんてそう限られとるわけでもない。何万というTwitterのユーザーは全世界に散らばっとるんやし、そう簡単に個人を特定したり偶然出会ったりなんてできない。

それなのに財前君は私=ちーやとはっきりと言った。それも疑問ではなく明らかに断定しとった。


誤魔化さなきゃ。


私は咄嗟にそう思った。Twitterと現実は違う。私は特にどちらもキャラを作っとるわけでもないけれど、それでもお互いにイメージっちゅうもんがあるやろう。ちーとひかるはネット上の付き合いやから知り合ってはいけない。

私は財前君がひかるやと知っても幻滅なんてせえへんかった。むしろこんなにもイケメンと知らん間に仲良うしとったやなんて、自分を褒めてあげたいくらいや。それにバイト先で何度も会話をしているうちに、財前君がとても優しくていい人やってことも分かった。だから彼に幻滅してほしくない。今まで通り軽口をたたいたりして仲良く楽しくいたいから。



「ちー?誰なん、それ?私名前やし一文字も被ってへんで」



笑いながらできるだけ自然と答えた。Twitterのアカウント名のちーは従妹の千紘からとったもんやから。私の名前にはかすりもしてない。お願いやから私がちーだと気づかんといて。どうか私の嘘に騙されて。



「なんや、ちゃうんか」



私の願いが届いたのか、それともただ言ってみただけやったのか。どちらにせよ、財前君はあっさりと私の嘘を信じて私の手元にある善哉をじっと見つめた。



「ちーって俺のちょっとした知り合いで、まだ会ったことないんやけど、そいつがこれとそっくりな善哉の写真送ってきよったことがあって」



そうか、だからばれたんや。私が初めてひかるにリプライを送ったとき、この店の善哉の写メを載せとった。しかも従業員だけが秘密でやってるサービスのアイスが載っとる善哉の写メ。それはだいぶ昔のことやったのに覚えとるなんて思わなかった。というよりも自分でもこの善哉の写メをひかるに送り付けとったことなんて忘れてた。



「その人に、会いたいん…?」



自分でもこの質問は卑怯やと思う。だって私は財前君がひかるであることを知ってて、ひかるとちーが既に出会っとることを知ってる。けれどそれを知らない財前君が本当はちーをどう思ってて、会いたいのかどうか知りたくなった。私がちーやって言わずにそんなことを探るなんてあかんことやとはわかってるけど。



「できれば会てみたいッスわ」



はっきりとそう言った。その瞳は私の善哉から離れとらんくて、でもさっきとは違う温かい光が見えた。今まで何度も財前君とこの店で会ってきた。それは店員とお客さんという立場やったけど、一度としてそんな優しそうな顔を見たことはなかった。

財前君はクールな子やと思う。あまり感情を表に出さないし、それこそ仲がいいわけでもない私に心を曝け出しとるはずもない。そんな関係のはずな私にも分かるくらい、今の財前君の表情は優しくて柔らかく見えた。まるで好きな人や恋人を見るような目で小さく微笑んだ。



「…そうなんや。どんな人なん?」



私は善哉の中でアイスが溶けるのも気にせずに財前君の話の続きを促した。財前君の中でちーという私がどう映っとるのか知りたい。どんなイメージをもって、あんな優し気な顔で語るんか教えてほしい。



「女らしくて、可愛えんスわ。それこそ花女のイメージとぴったり合うとるような人。たぶん年下で、ずっと一緒におりたくなるくらい楽しい人」



財前君の口から出てくるとは思わなかったような褒め言葉がつらつらと述べられる。財前君の中ではちーは絵にかいたような女の子。私とは正反対。女子力は低いし、お世辞にも可愛いとは言われへん。良くて中の上。財前君のイメージに沿っとるような可愛いタイプやない。



「そう、なんや…なんか惚気られとるみたいやな、はは。早う会えるとええね」



きっと財前君がちーに持っとるイメージは自分の好きな人のタイプ。話しとるうちに自然とイメージをそれに重ねたんやろう。だから、私は財前君の好きな人にはなり得ない。どう考えても真逆なんやから。

やっぱり、私がちーやなんて言えない。言いたくない。財前君のイメージを崩したくない。それに今まで通り一緒にたくさん話をして、くだらないことを言い合いたい。Twitter上でもここでも会えなくなるなんて嫌や。幻滅、されたない。



好きなままで、いてほしい。



気持ちを誤魔化すように善哉を口に運ぶ。掬い上げた善哉は抹茶アイスが溶けていて、緑色が渦巻いていた。美味しい筈のそれなのに全く味を感じなかった。