まさかの出来事に場は唖然としたやろう。やって財前君のお題の紙に書いとんのは、



「大切な人。でなんで少年連れてきとんねん!自分アホかー!!」



マイク越しに叫ぶ謙也君にうちらはクスクスと笑う。


借り物競争では、おきまりの校長のカツラに匹敵するようなネタから、好きな人みたいな恥ずかしいお題まである。

財前君が引き当てたんは後者。大切な人、と聞いたら普通異性を思い浮かべるやんな。せやのに財前君が連れてきたんは、その腕に収まっとる小さな少年。多分小学生にもなっとらん。



「別に女やなんて書いてへんし」



にやりと笑った彼は抱き上げとった少年を降ろした。それからしゃがんでその子と目を合わせて、頭を撫でた。それもひどく優しい笑顔で。


遠目からなんやけど、財前君の表情は近くで見とるようにわかる。さっきみたいなにやりって笑顔やなくて。心底大切やっていう優しい眼差し。思わずうちはその顔をじっと見てしまった。


「せやけどっ…はぁ。で、誰なん?」

「俺の甥っ子ッスわ」



しゃがんだまま謙也君を見上げて、見下ろされとるんが気に食わんかったんか、すっと立ち上がった。財前君の左手は甥っ子君の右手をぎゅっと握っとる。年の離れた仲の良い兄弟のようにも見えんくはない。



「ざいぜんたけるや」



少しばかり舌足らずに名前を口にした少年はつやつやの黒髪にまん丸の大きな猫目をした可愛らしい男の子やった。そのとなりに並ぶのはイケメン財前君。なんやこの組み合わせ。



「もうええでしょ。ちゃんと大切な人、連れてきたんで」



もう一度にやりと笑う財前君の隣で、たける君は小さな左手を照れながら振っていた。財前君が客席に連れ帰る。



ちー[むっちゃ可愛ええ(/ω\*)]



この場の誰もがうちと同じように小さなアイドルに目を奪われたやろう。やってそれほどに可愛かった。



「財前君のあんなに優しい顔初めて見たよ」



千紘がびっくりしとる。あの顔はかなりレアらしい。なんや得した気分。ひかるの素顔が発覚して、更にレアな表情まで見れたんやから。


確かにひかるはイケメンや。それに、あの顔は反則やと思う。うちやってあんなん間近で見たら照れると思う。



その何競技か後の騎馬戦、リレーでは白石君が大活躍で終始千紘が頬を染めとった。可愛ええ、ほんま可愛ええ。



ちー[予想外に体育祭楽しかった!]



夜、布団の中で一日を振り返る。たまたま成り行きで行くことになった四天宝寺の体育祭。そこで偶然出会ったひかる本人。

欲を言うんなら素のひかるともう少し話してみたかった。当然向こうは気づいてへんやろうし不可能やけど。



ひかる[@ちー 俺は疲れた(。´-д-)]

ちー[@ひかる お疲れ(*^艸^)]



ちょうどTwitterに浮上したらしいひかるからリプライが来る。ほんまほうちら今日出会ったんやでって言いたいけど、それはもう少し黙っておこうと思う。

ひかるにはうちのことを何も知らんでありのままで接して欲しいから。



ちー[@ひかる 何の競技に出たん?]

ひかる[@ちー 借り物]

ちー[@ひかる リレーとかやないんや(°д°)何借りてきたん?カツラ?]

ひかる[@ちー 誰のやねんw俺の大切な人を全校生徒に見せびらかせたった( ̄▽ ̄)]



うちはその文字を目でおった瞬間、思わず吹き出してしもた。


だって。いや、正しいんやけど。何も知らんやったら普通に彼女見せびらかしたって思うけど、ほんまは甥っ子君やろ。

それをあのクールな顔をドヤ顔(想像)にして言うてんねんで。おもろないわけないやん。



「ひかる…おっもろ…くくっ」



ごろりと寝返りをうって、ひかるにもう一度だけリプライを送ってTwitterから離脱した。



ちー[@ひかる その大切な人はさぞかし可愛ええんやろうね]



夢の世界へ落ちる間際、うちの脳裏に浮かんだのは優しそうに微笑む漆黒の髪をした青年と舌足らずに喋る男の子やった。彼の笑顔を見て思ったんや、この眼差しがうちだけに向けられたらええなって。



ひかる[@ちー 言うとくけど、彼女とちゃうで]



そんなリプライを財前君が慌てて送っとるとも知らんで、うちは携帯を握り締めたままぐっすりと眠りに着いた。