ご褒美
二人だけの空間。隣には彼氏の蔵ノ介。
こんなに嬉しいシチュエーションの筈なのに。あたしの心中は穏やかではない。
「わかんなーい!!もうやだ、もうやだー!!」
持っていたシャーペンを投げ出して、そのまま後ろにごろんと転がった。
ここは蔵ノ介の部屋。目の前には簡易テーブルと、その上に参考書たち。
誰だってこの状況を見たらわかるだろう。あたしは今勉強をしていた。勿論過去形。だってちょうど今投げ出した所だから。
学校が終わったあと勉強を教えてくれることになって、蔵ノ介の家に来た。
ついこの間の全国大会で部活を引退したばかりの蔵ノ介だけれど、彼にはテニスの推薦というものがある。
テニスで全国大会に行くほどだ。引く手数多なんだろう。それに推薦なんてなくても蔵ノ介は頭いいし、生活態度も申し分ない。
まさに完璧。パーフェクト。それに比べてあたしときたら…
「名前、ほら、ちゃんとやらな」
あたしの腕をぐいっと引っ張り起き上がらせる。無理矢理にペンを持たされて、あたしは口を尖らす。
だって、わからないんだもの。蔵ノ介と違ってあたしの頭は標準以下。
それなのにテニスの推薦とは言え、そこそこな偏差値の学校に行く蔵ノ介と同じ高校に行きたいだなんて思ったあたしが馬鹿だった。いや、馬鹿で間違いないんだけど。
「い・や・だ」
もう一度ペンを放り投げて、隣にいる蔵ノ介に背を向ける。
「名前ー」
蔵ノ介の呆れた声を背に受けてちらりと振り替えると、蔵ノ介はテーブルに肘をついてあたしをじっと見ていて、目が合ってしまう。
でもその視線には負けない。今日ばっかりは負けない。だってわかんないもん。勉強なんかしたくないもん。
あたしは再度つんと顔を背ける。そうしたらもう一度蔵ノ介の呼ぶ声と頭に重みを感じた。頭の上にあるのは蔵ノ介の大きくて温かい手で、ゆっくりと髪を梳くように撫でる。その手に釣られて蔵ノ介を見るとにこりと笑顔を向けられた。
「俺と同じ学校行くんやろ?せやったらやらなあかんで」
「でも、でも、わかんないだもんー」
「俺が教えたるから、な?もうちょい頑張ろな」
その優しく甘い顔と声にあたしは顔を真っ赤にして頷いた。
蔵ノ介と同じ学校に行きたい。あたしは馬鹿だけど、蔵ノ介と離れたくない。
ペンを持って参考書に向き合う。やっぱりわからないけど、わからないのは蔵ノ介が懇切丁寧に教えてくれる。大丈夫、頑張れる。頑張る。
「今日はここまでにしよか」
きりのいいところで蔵ノ介に声をかけられて時計を見る。結構な時間がたってるし、外ももう真っ暗だ。
「名前、ご褒美や」
蔵ノ介はポケットから取り出したチョコレートをあたしの唇に当てる。あたしはそれをパクリと口に含む。甘くて美味しい。自然と顔が綻んで、蔵ノ介を見上げる。
そこに降ってきた柔らかい感触。小さな音を立てて離れたそれであたしは硬直する。
「甘ーいキスは頑張って教えた俺へのご褒美、やろ?」
くすっと笑みを浮かべてあたしの頬を撫でた。あたしの頭はもうショート寸前だ。
せっかく勉強したのに忘れてたら蔵ノ介のせいなんだからっ!!
みづきちゃん、誕生日おめでとう!!遅くなってごめんね(´・ω・`)
何も誕生日に関係ないお話になっちゃったけど、一応白石です!
いつも絡んでくれてありがと!!これからももっとお話しようねー(*´∀`)
2013.9.7 由宇
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