どきどきどきどき。高鳴る胸の鼓動をどうにか抑えながらやって来たのはにぎやかなキャンパス通り。まっすぐに大学へ続く道沿いの歩道にはけやきの木々が繁々と伸びていて、道の両側には大学生が通いそうなおしゃれなカフェだったり便利なコンビニだったりが並んでいる。そしてその道を行く人々はほとんど若者ばかりで、みなそれぞれに今時の、まるでファッション誌で見るようなおしゃれな格好をしていた。会う人会う人すべてが美人さんとイケメンさんばかりで、彼らは楽しそうに睦まじげに道を闊歩している。私はその光景を見ながらはっと息を飲んだ。


すごいすごいすごい。大学生ってこんななんだ。


今日から数日間は入学式前のオリエンテーション。大学によってオリエンテーションの時期は異なるけれど、うちの大学は入学式前にそれを済ませてしまうらしい。一歩一歩緊張の面持ちで大学へと歩みを進めていく人たちが何人も見つかった。きっと彼らはみんな私と同じ、この春に大学生になる予定の1回生だろう。唇を硬く引き結んで、けれどどこか期待の色を含んだ眼差しで前を見据えるその姿に、ああ緊張しているのは私だけじゃないんだと思えて、ふっと肩の力が抜けたような気分になった。


そのまましばらく歩いていると、やがてよりいっそうがやがやと賑やかな声や音がし始めた。キャンパスに近付くにつれて人の数も格段に増えている。なんだろう、と人の波をかいくぐりながら不思議に思っていると、何やらポンポンと肩を叩かれた。振り返るとそこには優しい笑みをたたえた見知らぬお兄さん。私は思わず首を傾げる。


「キミ、1回生?」
「は、はい」
「よかった!じゃあこれどうぞ。うちのサークル遊びに来て」


はい、と手渡されたそれは1枚のチラシ。そこには何やらサークルの新入生歓迎会のお知らせが書いてあった。それを見てああなるほどと一人納得する。この人だかりはサークル勧誘なんだ。

私にチラシをくれたお兄さんはじゃあ、と笑うとどこかへ行ってしまった。再び勧誘のためにチラシを配っている。なんだかこういうの大学生らしいなあ、なんてぼうっとしていたら私がチラシを持っていることで1回生だと気付いた先輩方がどっと押し寄せてきた。「うちのももらって!」「楽しいからおいでよ!」あれよこれよと声をかけられながらどんどん私の腕の中で山積みになっていく紙の束。ああ大変なことになってきたぞ。

それでも負けじと人の波を縫うように歩いていれば、どんっ、と誰かにぶつかってしまった。すみません!と慌てて咄嗟に謝れば「あれ?キミ、名前ちゃんか?」なんて名前を呼ばれてしまった。驚いてその人の顔を見上げてみれば再びびっくり。なんと彼は中学時代の先輩だったではないか。


「えっ、し、白石先輩?」
「おー覚えとってくれてたんやな。久しぶり」
「おっ、お久しぶりです!」


懐かしいなあ、とにこやかに笑う白石先輩を、驚きから食い入るようにまじまじと見つめてしまっていると、先輩にふいに微笑みかけられた。中学時代の頃より幾分か高くなった身長に、大人びたその優しい表情のせいだろうか、胸の奥がキリキリと痛むような、けれど不思議と心地いいようなそんな妙な思いを感じた。なんだろうこれ。ざわざわと騒がしい人混みの中で一瞬、ほんの一瞬だけ、時間が止まったような錯覚すら覚えてそんな自分にワケがわからなくなる。


「どないしたん?変な顔して」
「…いや、何でもないです」


私の顔を覗きこむ白石先輩に今度こそどきりと心臓が跳ねたのがわかった。ああそうだ、私はこの感覚を覚えている。この人と縮まる物理的な距離に、あの頃の私はいつも戸惑いを覚えては胸が疼くような苦しさを感じていたのだった。あれはそうだ、一種の恋心に近い尊敬の念のような、そんなものだったのだろう。


「それにしても嬉しいわあ。また名前ちゃんと同じ学校やねんから。よろしゅうな」


本当に嬉しそうに微笑む白石先輩に私まで嬉しくなった。尊敬であろうと何であろうと少なからず好意を向けている相手からそんなことを言われて嬉しくないわけがないのだ。私はばれないようにほっと息を吐く。大人びた白石先輩に初め感じていた戸惑いや驚きがだんだんと薄れていくのを感じた。やはりこの人は何年経っても、あの白石先輩なんだ。ふいに見えた左手の白い包帯が、よりいっそうその気持ちを大きくした。


「そういえばサークルは決めたんか?」
「いえ、まだ何も」
「それは好都合や。決めてへんならうち見ていき。テニスサークルやねんけど」
「相変わらず、ですね」


何もかもが新しくなっては過ぎ去っていく季節に、こうして再び白石先輩と出会えたことが嬉しかった。先輩が今も変わらずテニスを好きでいたことがたまらなく幸せだった。あったかい、胸の奥を行ったり来たりするこの気持ちはなんだろう。変だけれど不思議と嫌じゃない。


「名前ちゃん。また一緒にテニスせぇへん?」


差し出された左手とその言葉が嬉しくてくすぐったくて、返事の代わりにぎゅうとその手を握りしめたのだ。





りかちゃーん!!白石をありがとうありがとう!
相互記念で頂けるとは思ってなくて感無量です(/ω\*)
Twitterやサイトでこれから妄そ……いや、夢を語り明かそうね(*≧∀≦)
これからもよろしくね!!

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