「名前!すまん、遅れてもうた」
「蔵先輩、大丈夫ですよ。私も全然待ってないんで」
「そか。…ほな、行こか」
「はい」


綿あめの様に甘く笑う彼女は、いつ見ても可愛くて繊細で、俺の心を掴んで離さない。いつも笑顔で俺の事を迎えてくれる名前は、俺の癒しだ。


「蔵先輩、今日はどこに行くんですか?」
「この間名前が見とったカフェ、あそこ行こうと思っとったんやけど、」
「!見てたの気付いてたんですね」
「当たり前やろ」


さすがです、そう感嘆する名前の顔を見て、この間二人で出掛けた時にちゃんと名前に気を配っていて正解だった、と心の中でガッツポーズする。でもそんなガッツポーズは見せないようにする。それが彼氏としての、一つ年上としてのプライドだ。行こか、と名前の手を引いて、俺達は最近この辺りで流行しているカフェへと足を運んだ。



薄桃色の建物。店の前には色とりどりの花が鉢に植わったままで飾られている。いかにも女子が好きな物を集めた、というようなお店だ。


「はわー可愛いですねー」
「ん。そうやなあ」
「入りましょう!早く入りましょう!」


はしゃぐ名前に、さっきとは逆に腕を引っ張られて店の中へと入っていく。店の中は、スイーツ独特の甘い香りがした。ああ、お腹すきますね。そんな事を言う名前が可愛くて、自然と笑みが零れた。


店員に案内された席に座り、ケーキやら何やらを頼み終えると、いつもの調子で名前が今週自分の周りで起こったことや友達の恋愛事情など色々な事を話し始めた。俺はこの時間が好きだ。学年が違うから、俺は名前がどうやってクラスで過ごしているのか、知っている事なんて皆無に近い。本当は不安だったりもする。こんなに可愛い名前を思春期真っ盛りな(それは俺も同じだが)中2の男子達の前にほっぽり出しておくなんて。だからこうやって名前が話してくれると、少しは名前の周りの事も把握できて、俺にとっては安心の材料になるのだ。



楽しそうに話す名前の話しに相槌を打っていると、急に名前の表情が曇った。どうしたん?そう聞くと、名前は小さな声で俺の名前を呼んだ。



「蔵先輩は、つまらなくないですか?」
「?何がや」
「こうやって、いつも私ばっかり喋ってるんです。蔵先輩はずっと話を聞いてくれているけど、私は蔵先輩が私みたいに話している所、あんまり見たことないんです。」


それは喋り続ける自分のせいなんですけど、そう言って名前は話を続ける。


「しかも先輩、今日は午前中部活でしたよね?」
「、おん。」
「それですぐに待ち合わせだったじゃないですか。蔵先輩、少し遅れて来て、すまんって謝って」


いつしか目の前に座る名前の澄んだ瞳には、涙が溢れんばかりに溜まっていた。


「私、蔵先輩の負担になってませんか?」
「、は?」
「私の事を思って行動してくれてるのは分かってます。それにめっちゃ嬉しい。せやけど、先輩も部活とか、受験生だし勉強とか色々あって。凄く忙しいのに、私の事もあって、」


私は先輩の負担になりたないんです。溜まっていた涙は、名前の滑らかな頬を滑ってテーブルに落ちた。名前は、俺がどんなに名前の事を好きなのか全く分かっていないらしい。


「あんなあ名前、負担なんて、今まで一回も思った事ないで」
「っ、嘘」
「嘘やない。まあ、忙しくないと言ったら嘘になるけどな。俺は俺が名前に会いたいから、どんなに疲れてでも自分に会いに行くねん」
「蔵先輩…」
「逆に名前に会われへんかったら疲れが倍溜まるっちゅーねん」
「ほんまですか?」
「おん。俺が嘘ついとるように見える?」
「…見えないです」


だったら信じいや。そう言って名前にデコピンすると、名前は涙の引いた瞳を三日月型にして笑った。


タイミング良く注文した食べ物も運ばれてきて、別の種類を頼んだケーキを食べさせあって、ケーキの感想を吐きながら、俺と名前は幸せな時間を過ごした。



「今度は私がケーキ作りますね」
「おん。気長に待っとくわ」
「そうして下さいー」
「期待しとるで、」


形の良い頭をぽんぽんと撫でると、名前はまた嬉しそうに笑った。




はるちゃん、受験お疲れ様〜(((o(*゚▽゚*)o)))
受験お疲れ様企画ver.フリリクに参加させていただいてありがとう!!
実はリクエストってあまりしたことがなくて…。こんな素敵なお話書いてもらえて嬉しい(/ω\*)
これからもTwitterでも、相互サイトとしてもよろしくね〜!

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