なんだかすぐに返信できなくて、結局家に帰ってから謙也くんにメールを送った。

ベッドに寝ころんで、もう一度自分が送ったメールを開く。



いいよ、って送っちゃったよ。白石さんにわたしのメールアドレス行っちゃうよ。どうしよう激しく緊張する。どんなメールしたらいいのかな。



無意味に携帯をパカパカ開閉してみる。


何かいじってないと緊張しちゃうんだもん。って、電話だ!!携帯が着信音を鳴らしながら光ってる。



「もしもし、謙也くん?」



慌てて電話をとってディスプレイに表示されてた名前を呼ぶ。



『おん。名前、今時間あるか?』

「大丈夫だよ」

『ほなら替わるな』

「え?ちょっと、謙也くん?」



耳に当てた携帯の遠くの方から声が聞こえる。謙也くんともう一人は誰なのかわからないけれど、何か言い合ってるみたい。多分その人が替わる相手なんだろう。



『もしもし、名字さん』



慌てたように呼びかけられた。その声はつい最近聞いた低く柔らかい男の人の声。誰だっけ。でも何だか耳に心地よい。



「もしもし?あの、どちら様ですか?」

『白石やけど』

「あぁ、白石さん…って、え?白石さん?」



ちょっと待って。白石さんって昨日の白石さんだよね。わたしの知り合いに白石なんて名字の人他にいないし。じゃあ今話してるのは昨日の白石さんってこと?え、ど、どうしよう。何話そう。
ていうか何でわたしに電話が。もしかして昨日わたし何かしちゃったのかな。本当は謙也くんと二人で帰りたかったのに邪魔だったとか。メールで言おうと思ったけどあまりのお怒りに電話しちゃったとか。


うわぁ、どうしよう…嫌われちゃったかも。



「ごご、ごめんなさい」

『え?』

「わたし、昨日何かしちゃったんですよね。あの、本当に、」

『っぶ…あはは』



わたしの言葉を遮って電話口で笑い声が聞こえる。彼は柔らかく笑うだけじゃなくてこんなふうにも笑うんだ。


でもわたしまた何か笑われるようなこと言ったのかな。恥ずかしい…。



『ちゃうちゃう。ただ名字さんと話したかっただけやねん。何もしてへんから安心してや』



未だ笑いながらそう言う白石さん。すごく容易にその顔が思い浮かぶ。きっとまたあの綺麗な顔で笑ってるんだ。



「あ、そうなんですか。良かった」

『笑ってもうて堪忍な』

「いえ、全然平気です」



わたしと話したいって。何か嬉しいな。


あれ、何で嬉しいの。だって白石さんは謙也くんの友達なのに。

















しばらく話してからもう切るなって言われた。謙也くんの携帯だしいつまでも電話してるわけにもいかないのはわかってる。


わかってるけど、何となく寂しくて気のない返事をするとまた白石さんはクスッと笑う。



『今度は俺の携帯から連絡するわ』

「え、あ、はい」

『ほなな』



ピッと電子音がして通話が切れた。


嬉しさのあまり携帯を握り締めたままベッドに横になる。自然と顔がにやけてしまう。


白石さんと電話してたのが夢みたいで心臓がドキドキする。いきなりだったから緊張で何話したか覚えてないや。でも、また連絡するって。



「あ、メール…」



手の中で携帯が新着メールを知らせる。確認すると知らないアドレスで。



『白石やで。登録しといてな。それとさっきはいきなり電話して堪忍』



絵文字はないし、文面だって大したことじゃない。





なのに嬉しくなってしまうわたしはきっと何かおかしい。



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