未だわたしの腕を離さない白石さんを見上げる。それに気づいて、わたしを見てにこりと微笑んだ。わたしはそんな白石さんに声をかけることができなかった。
いつにもまして素敵に見える…。もはや神々しい。
いやだってね、白石さんに会うときはいつも制服姿なわけですよ。黒い学ランに身を包む白石さんも、それはそれでかっこいいのだけど。
今目の前にいる白石さんは謙也くんたちが着ているテニスウェア。恋愛対象ではない謙也くんでさえかっこよく見えるのに、大好きな白石さんがかっこよく見えないわけが無い。
というよりかっこよさが何倍も増して見える。襟からちらりと見える首筋に鎖骨。軽く腕まくりをしたジャージから現れたテニスをしてるように見えない白い肌。白いとは言っても見える部分だけでもわかる筋肉質な腕。
だめだ、白石さん…かっこよすぎる。
白石さんは黙ってしまうわたしをじっと見て小さく息を吐いた。それもちょっと寂しそうな顔で。ただそれは一瞬でもしかしたらわたしの気の所為かもしれない。
「…さ、練習始めるで。名字さんはこっち」
腕から手へ移った白石さんの熱に引かれてわたしはテニスコート脇のベンチに座る。
テニスを近くで見るのは本当に久しぶり。それに本当にみんなかっこいい。勿論一番は白石さんだけど。そんなの口に出しては言えない。きっと私の好きは白石さんの好きに比べたら大きすぎて迷惑になっちゃうもん。だから心の中で黄色い声を上げながら応援するんだ。
「ねーちゃん!」
「あ、遠山くん。一年生でも先輩たちに引けを取らないなんてすごい ね」
順番に休憩なのか、唯一の年下の遠山くんがわたしの隣に座ってにこにこと笑う。
遠山くんはいい意味で高校生には見えない。
子供っぽいというより、少年らしさを残しているといった方がいいかな。年下だからかもしれないけれどかっこいいよりは可愛いという感じ。それでもわたしよりは大きいし、きっと力も強い。
「白石のカノジョっちゅーことは告白したん?」
「え」
遠山くんからの予想外な質問に顔を赤くする。まさか部活中にそんなこと聞かれるとは思わなかった。
告白、したというか。されたというか。いやでも、一応された、でいいのかな。好きって言ってくれたもんね。
「金太郎さーん?何休憩中に楽しそうに話しとるんかな?アタシも混・ぜ・て」
遠山くんと反対側にわたしを挟むように座ったのはオネェの金色さん。
「やって小春も知りたいやろ?」
「金太郎さん野暮なこと聞くんやないの。見とればわかるやんか。当然蔵リンが告白したんよ」
「なっ!?金色さっ!?え?」
どうしてわかるの?わたしまだ何も言ってないのに。ずっと白石さんのこと見て、大好きってオーラ出してたけどそれだったらわたしが告白したことになるし。いや、うん、間違ってはないんだけど。大好きなのは正しいんだど。
「こーら、自分ら、名字さんをあんま困らすんやない」
恥ずかしくなって俯くわたしの頭を撫でる大きくて優しい手。それに釣られるように顔を上げると太陽を背にして輝く白石さん。
ま、眩しい…。
太陽がじゃないよ、これ。白石さんから発せられる神々しい輝きだよ。
「あらやだ、名前ちゃんったら蔵リンに見とれとる」
「へ?あ、わ、ごめ、なさっ、えっと」
金色さんから指摘を受けて白石さんから目を逸らす。
そして恐らく真っ赤な顔を隠すように頬に手を当てた。その頬が熱い。
「蔵リンもこんな可愛え彼女出来たなんて早う教えてくれたってええやないのー」
くねくねとした不思議な動きをしながら白石さんの腕をつつく金色さん。それを白石さんは爽やかに笑ってやんわり躱した。
「ほら、さっさと練習戻りや。金ちゃんも」
二人を立たせて背中をテニスコートに向けて押しやった。
騒ぐ遠山くんの隣に並ぶ金色さんは、後ろを少しだけ振り向いて眼鏡の向こうでわたしに向かってウィンクをした。な、何だろう?
「堪忍な、迷惑かけて」
そう言ってわたしの隣に座る。さっきまでテニスコートで別人のようにテニスをしていた白石さんが近くに、いる。
「いえ、全然迷惑だなんて!」
「特に金ちゃんなんて昔からほんま突拍子もないこと言いよるからな」
ははっと笑ってテニスコートを見た。
多分、白石さんにとってこのチームメイトはすごく大切な人達なんだ。こんなにも優しそうな目でみんなを見るんだもの。
「いいな…」
思わず口から出てしまった言葉は羨望の心を表すものだった。
好きな人の好きな人はすぐにわかるって言うけれど、きっと白石さんの好きな人はこの人たちなんだ。
わたしもその中に加えてもらえないかな。なんて考えちゃうほどわたしの好きは大きいの。
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