数えるほどしか足を踏み入れたことのない四天宝寺高校。テニスの強豪校として知られるそこで、白石さんは部長を務める。



「白石、遅いで」

「謙也くん!!」



校門で壁に凭れて立っていたのは、テニス部のウェア姿の謙也くん。わたしは白石さんと手を繋いでいたのも忘れて謙也くんに駆け寄る。

久しぶりにテニスウェアの姿を見たけど、やっぱりかっこいいなぁ。



「うちで名前に会うんは変な感じやな」

「そうだね。久しぶりに謙也くんのテニスウェア姿見たよー!かっこいいね!」




小さい頃はよく謙也くんがテニスするのを見学に行ってたからお馴染みの格好だったけど、中学に入った頃からその姿は見なくなった。小さい頃より背も伸びてるわけで、私の目にはイケメンの幼馴染みがさらにかっこよく映った。



「…名字さん、俺着替えて来るからここに謙也とおってな 」
「あ、はい。わかりました」



私が笑顔で頷くと白石さんは困ったような顔をして、すっと手を離した。暖かい手が離れて寂しく感じるのは私だけかな。


部室があるだろう方向に走っていく白石さんを見つめる。隣では謙也くんが話しているのだけど、私の耳には何も入ってこない。



「って聞いてへんやろ!!」

「わ、びっくりした!謙也くん、いきなり大きい声出さないでよー」

「せやかて名前が部室ん方ばっかずっと見とるから。焦らんでも白石はすぐ戻ってくるで」



にやけ顔の謙也くんに言われて目をそらす。私そんなに長い時間見てたかな。恥ずかしい。でも白石さんの手が離れた時寂しく感じちゃったんだもん。早く戻ってきて欲しいって思っちゃったんだもん。



「着替えに行っとるだ…」

「あらあらー!?女の子がおるやないのー!!」



謙也くんの言葉に被さって聞こえた声。ぞろぞろと先程白石さんが向かった方向からやってくる、謙也くんと同じジャージの集団。近づいてきてわたし達の前で止まった。当然みんな男の子で、わたしは少しだけ謙也くんの背中に隠れた。



「何隠れとると?」



謙也くんの横から顔を出した背の高い人。


おお大きいっ…!!わたしが小柄なのもあるかもしれないけれど、それにしたって背が高い。絶対2mあるよ、巨人さんだよ。



「名前、こいつらは俺のチームメイト」



一人一人挨拶をしてくれてわたしもぺこりと頭を下げた。挨拶をしてくれた感じ、怖い人は一人もいない。耳に大量のピアスがあったり、おネエ言葉の人もいるけど、大丈夫、謙也くんの大切なチームメイトだもの。



「で、この人は?まさか謙也さんの彼女…なわけないっスね」

「ああ、彼女ちゃうで。俺の幼なじみや」



さらっと馬鹿にしたように言うピアスの人の嫌味な言葉を流す謙也くんは気づいているのかいないのか。きっと気づいてないんだろうけど。あるいはいつもこういう扱いだから慣れているだけなのか。



「珍しいこともあるったい。今まで一度も幼なじみば連れてきたことなかばい」



巨人さんこと千歳さんが興味津々という目で、未だ謙也くんの後ろに隠れるわたしを見ている。



「そもそも連れてきたん、俺ちゃうしな」



同意を求めて、振り返ってわたしを見るからこくりと小さく頷いた。

そもそも幼なじみという立場だけで見学に来たことは一度もない。試合だって選手たちとは違って平日に公欠はとれないから何度かしか見たことがない。もしかしたら同じ学校だったら全国大会くらいは見に行けたのかもしれないけれど、残念ながら謙也くんと同じ学校に通っていたのは小学校まで。



「謙也が連れてきたんと違うんやったら、このねーちゃん誰が連れてきたんや?」



唯一の一年生、遠山くんが謙也くんを不思議そうに見る。わたしよりは勿論背は大きいけど、謙也くんや白石さんに比べたらやや小柄だ。まだ一年生だし成長途中なのかな。



「えっと、白石さんに」



ぼそりと小さな声で呟くと、みんなの視線が集まる。それは一様に驚きの視線で。わたしはまた謙也くんの背中に隠れる。だって恥ずかしい。



「名字さん」



名前を呼ばれて突然腕を引かれる。よろけて謙也くんの後ろから引っ張り出された。その犯人はわかってる。でも大丈夫。名前を呼んでくれたのは大好きな人の声だったから。



「名字さんは俺の彼女や」



部員さんたちにそう宣言する白石さんはとても輝いて見えて、わたしは真っ赤になってぺこりと頭を下げることしかできなかった。



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