繋がる手から視線を上に移動して白石さんの横顔を眺めた。わたしの視線に気づいたのか白石さんは、ん?と優しい眼差しを向けてくれる。
「あの、何で迎えに…?友達と行くって言ってあったのに」
立ち止まって手を繋いだままわたしの方に体を向ける。手だけをつないで真正面から向き合う状態になって、わたしは顔を赤く染める。
あんな王子様さながらに迎えに来られてドキドキしないわけがない。
「心配になってん」
繋いでない手で頭を掻きながら照れくさそうに微笑みを浮かべる。
「女の子だけで来るんはやっぱり気になって。お友だちが来れんようになったんやったら、迎えに来てほんまに良かった」
手を繋ぐ力をきゅっと強めてまた歩きだした。白石さんの歩くスピードは、前に一緒に出掛けた時みたいにわたしに合わせてゆっくりとしている。そんな小さな気遣いがわたしの心をあたたかくする。
「せやけど、あんな仰山の女の子に囲まれるとは思わんかったわ」
苦笑いを浮かべてびっくりしたわ、と疲れたような表情をする。
「だ、大丈夫でした?女子高だからかっこいい人とかにみんなすごく敏感で」
謙也くんが来てくれたときもいつもすごい人だかりになるけれど、今日の白石さんはそれ以上だったような気がする。つまりそれって、白石さんがどれだけかっこいいかってことを表してるわけで。
こんな人がわたしの彼氏でいいのかな…。
「んーまぁ、俺で良かった…かな」
「え?」
意味がわからず見上げるとそっぽを向いて、頬を掻いている白石さん。顔も心なしか赤い。
え、可愛い…。白石さんでもこんな顔するんだ。
なんて思っていたあたしは甘かった。白石さんの新しい顔を見れて喜んでいたら爆弾を落とされた。それもとてつもなく大きな。
「逆の状況やったら、俺怒っとった自信あるわ」
「逆の状況?」
首を傾げてそう訪ね返すと、思い切り目をそらされた。
「あかん、今めっちゃ情けない顔しとるから見んといて」
わたしと反対方向を向いて、繋いでいない方の手で俯き気味の顔を隠す。それでも隠しきれず、ミルクティー色の髪から覗く耳は真っ赤。
「あの…?」
「例えば俺を名字さんが迎えに来てくれとって、あんなにたくさんの男に囲まれとったら、絶対妬く」
段々小さくなる声とわざとらしくわたしを見ない白石さんの視線。だからかな、白石さんの言葉を理解するのに時間がかかった。
そして意味がわかった瞬間、わたしの顔に熱が集まる。
だって、だってだって。たとえわたしが白石さんを迎えに行っても、男の子たちにかこまれるなんて、そんなこと万が一にもあり得ない。それなのに想像してやきもち妬いてくれるなんて。わたしはさっき、ただ突然のこと過ぎて驚くことしかしなかったのに。
わたしは更に赤くなる顔を隠すために下を向く。白石さんもそっぽを向いている。二人して真っ赤になって目をあわせない。
端から見たらなんて初々しいカップルなんだろう。
「あーもう、こんなん言うつもりとちゃうかったのに」
真っ赤な顔で恥ずかしそうに呟く。そのあとわたしを見て、くしゃっと破顔する。
「部活遅れてまうから早よ行こか」
わたしの手を引いて前に進む。
そこでわたしはまたもや顔を更に赤くする。だって白石さんが手の繋ぎかたを変えるから。
指と指が絡む。普通に繋ぐより、相手の指を一本一本感じてより強く結び付く。
愛しくて愛しくて、離すことなんてできないかのように。
「名字さんの手小さくてかわええな」
そしてそんなことを言うものだから、わたしはもう何も言えなくなるの。
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